市場驚かせたタカ派的ドットチャート FRBは「確信犯」か?
FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを見送ることを決定しました。一方で、政策金利の見通しは引き上げ、タカ派的な姿勢を示しました。今後の米国の金融政策の行方とFRBの意図について、第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】日経平均なぜ3万円超え? 4つの視点から株価急上昇の要因を考える
2022年3月から計5%ポイントの利上げ実施
日本の金融政策決定会合に相当するFOMC(米連邦公開市場委員会、6月13~14日開催)は大方の予想通り、政策金利であるFF金利を5.25%(誘導目標レンジ上限)で据え置くことを全会一致で決定しました。パウエル議長やその他FRBの高官が事前に示唆していた通りの結果です。2022年3月からFRBは累積で5%ポイントの利上げを実施してきたので、その金融引き締め効果を見極める段階に入った格好です。 今後の注目点は次回7月FOMC(25~26日)における利上げ再開です。筆者はそれまでに発表される雇用関連統計や物価指標が従来の基調に沿ってインフレ終息を示す結果となれば、そのまま利上げ停止となる公算が大きいと判断していますが、一方で株価が一段と上昇するなどして金融市場が楽観度合いを強めれば、追加の利上げも十分に考えられます。
政策金利の見通しではタカ的な姿勢示す
利上げが最終局面に差し掛かっているとの現状認識が広く共有される中、今回のFOMCでFRBは、政策金利の見通しを引き上げるというタカ派的な姿勢を示しました。政策金利の先行き見通しは、ドットチャートと呼ばれる「投票」で示されます(※FOMCに参加する18人の政策委員がそれぞれ政策金利の見通しを示す)。今回その中央値は5.75%となり、3カ月前から0.5ポイントも引き上げられました。こうしたタカ派的(インフレ退治に積極的)な姿勢が示されたのは、金融市場参加者が前のめり気味に利上げ停止を織り込まないように牽制する意図が強かったとみられます。そうしたタカ派的なメッセージを受け、政策金利の見通しを反映するFF金利先物は7月の利上げ(25bp=ベーシスポイント)を約6割の確率で織り込む水準へ上昇しました。 今回のFOMCにおける要点は、2023年の食料・エネルギーを除いたコア物価見通しを上方修正(+3.6%→+3.9%)したことと整合的な形でドットチャート中央値が2023年を中心に引き上げられたことです。上述の通り、2023年末の政策金利の見通し中央値は5.75%へと前回対比で0.5ポイント上方改定され、それに伴って2024年は4.75%(3カ月は4.375%)、2025年は3.50%(同3.25%)へとそれぞれ上方改定されました。 タカ派的なドットチャートの形状は多くの市場関係者を驚かせましたが、市場参加者がそれを真に受け止めたかは別問題で、実勢としては「疑い寄り」の半信半疑でしょう。FF金利先物は相変わらず12月FOMCにおける「利下げ」を約3割の確率で織り込み、2024年1月FOMCまでに利下げが実施される確率を75%程度とみています。追加利上げはせいぜい1回でその後は比較的早期に利下げに転じるという市場参加者の共通認識に大きな変化はありませんでした。