「俺、マタギになる」 31歳、4回転職した男性が「秋田に移住」したワケーー何度も挫折をくり返した末に、「マタギ」という生き方にたどり着いた
「過去の武勇伝もノリノリで教えてくれます(笑)。優さんに、『岡本を頼む』と言ってつないでくれたのも親方です。面倒見がいいとか、そんな平たい言葉では表現できないくらいに人間的にすばらしく、本当に可愛がってもらっています」 ■マタギに惹かれる若者たち ここ数年、岡本さんのようにマタギの生き方に共感し、マタギになるために阿仁地区に移住してくる若者たちが現れ始めている。共通するのは、「混沌とした現代社会で、『生きるとはどういうことか?』を自分や他者に問い続けていること」と岡本さんは言う。
その答えを岡本さん自身はマタギの生き方に見いだした。 「現代社会は人も動物も“死”が遠ざけられています。汚いものを覆い隠して社会の秩序を形成することで、“生”の感覚までも奪われていくような気がするんです。でも僕たちマタギは日々、山に入って、当たり前のようにクマも魚も鳥も自分の手でその“生”を仕留めて、山の神様に感謝しながら食べる。ありのままの命の連鎖が日常と地続きにあるんです」 もう1つ。シカリが統率するマタギという組織のあり方にも、岡本さんは惹きつけられる。
「僕の主観的な感覚ですが、マタギは1つの群れなんですよね。だからシカリという群れの長に従うことは、組織の上下関係とも職人の師弟関係とも違う、生きるための本能的なもののような気がします。僕はもともとプライドがめちゃくちゃ高くて、実は人に命令されたくない人間なんです。ちっぽけなプライドなんですけど(笑)。でも猟場のシカリの指示や命令は本当にすーっと頭に入ってくるんです。だって、従わないと死んでしまいますから」
マタギには巻き狩りという伝統的な猟法がある。集団で猟場を囲み、「勢子(せこ)」が射手の「ブッパ」が待ち構える持ち場にクマを追い上げていく猟法である。巻き狩りの場で勢子やブッパを指揮するのは、群れのリーダーであるシカリだ。 しかし、物事は基本的にベテランクラスとの合議制で決めるという。猟場の地形を見て、人と場所の配置を話し合い、「んだな、それで行ぐべ」とシカリが皆に告げる。 「組織の社内政治よりよっぽど優れている」と岡本さんは言う。授かったクマの肉はマタギ勘定といって全員に平等に分配する。射手や勢子という役割に上下はなく、シカリが皆に「ごくろうであった」と分け与えるものでもない。