「俺、マタギになる」 31歳、4回転職した男性が「秋田に移住」したワケーー何度も挫折をくり返した末に、「マタギ」という生き方にたどり着いた
■ついに…クマを授かった 昨年、岡本さんは松橋さんから教えてもらった猟場に1人で向かった。早く一人前のマタギとして認められたかった。 地形図を広げて、「必ずクマがいる場所はどこですか?」と聞く岡本さんに、松橋さんが示したのは、かつてマタギの最盛期に主要だった場所。険しい山の奥深くに潜む猟場だ。 尾根の風上に立つと、風下からゆっくりと山の斜面を登ってくるクマが視界に入った。銃を構えて距離を計る。怖さは一切ない。
60m、50m、40m。射程距離に入ったと同時に引き金を引いた。弾は臀部に当たり、クマが尾根を駆け下りて逃げていく。岡本さんは考えるより速く全速力で追いかけて、じりじりと距離を詰め、2発目を撃った。そして倒れ込んだクマにとどめの一発を撃ち、授かった。 「ショウブ! ショウブ!」 マタギがクマを仕留めたときに仲間に知らせるかけ声を、山に向かって腹の底から叫んでいた。 山から戻り、松橋さんにクマを授かったことを報告すると、「よぐやった」と言ってもらえた。恐る恐る質問する。
「俺、マタギって名乗れますか?」 「1人でクマを獲る奴はそんなにいるわげねがら、1人でクマ獲ったがら、岡本はマタギだ」 1年前の松橋さんとの会話を思い出すと、岡本さんは誇らしい気持ちになる。まだまだ、これからだ。今年の冬は伊藤さんの穴熊猟について行くつもりだ。 岡本さんがマタギ修行する大阿仁地区では、「マタギ文化や狩猟技術を一緒に継承する仲間を募集している」という(公式HP「阿仁マタギの伝統を継ぐ」)。
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桜井 美貴子 :ライター・編集者