「俺、マタギになる」 31歳、4回転職した男性が「秋田に移住」したワケーー何度も挫折をくり返した末に、「マタギ」という生き方にたどり着いた
「秋田に移住して、マタギの後継者になる」 ■「伝説のマタギ」との出会い 移住を決めてから、岡本さんの行動には迷いがなかった。 2021年の冬、北秋田市の移住体験プログラムに妻と一緒に参加。マタギの山歩きを体験して、頭の中でイメージしていた世界そのものだと確信する。 移住にあたって、一番の課題は妻の同意だった。話し合いの末、岡本さんの収入アップを条件に移住を認めるという約束を取りつけた。その頃には仕事のスキルもあがっていたので、妻の条件をクリアするためにフリーランスに転身。テレワークの環境さえあれば、どこでも仕事ができることも独立の大きなメリットだった。
こうして岡本さんは北秋田市に円満移住をすることができた。 現在、岡本さんには師と仰ぐ2人のマタギがいる。1人は、前述の伊藤優さん。若い頃から射撃の大会で何度も優勝経験を持ち、歴代の阿仁マタギの中でも射撃の名手として名高い。冬眠中のクマを穴からおびき出して仕留める穴熊猟でも、その腕は冴えわたる。 「穴熊猟では、クマは煙でいぶされたり、棒でつつかれたりするので、明らかに人間を外敵だと認識して、殺すつもりで穴から出てくるんです。しかもクマとの距離は巻き狩りと違って至近距離。優さんは厳寒期の穴熊猟に1人で行ってクマと対峙するんです。本当にかっこいいなと思います」
もう1人の師匠は、岡本さんが「親方」と呼ぶ、元シカリ(リーダー)の松橋吉太郎さん(91歳)。伝説のマタギと言われている人だ。 83歳まで現役を続け、91歳の今も岡本さんと一緒に山を歩く。伝説たるゆえんは銃の腕はもちろん、阿仁のすべての山を熟知し、あらゆる経験が頭の中にぎっしりと詰め込まれているから。 岡本さんが聞けば、なんでも教えてくれる。山の地形や歩き方、火の起こし方。クマの撃ち方と心構え。クマの猟場や通り道、冬眠穴の場所。山菜やキノコが生える場所、イワナやヤマメが釣れる場所――。