日本のシングルマザーの貧困 豪州出身の監督が見た「豊かな日本で取り残された人々」
外国人にしかつくれない映画
この作品は、外国人にしか作れなかった映画だと思うんです。 英語と日本語の字幕が入るバイリンガルの映画だし、海外の視点が入っているからです。海外の声は絶対に入れたいと思いました。なぜなら日本の人は外国人が言うと、耳を傾けてくれます。 ――「海外の視点」とは具体的にどういうことですか。 離婚後の子育てについて、基本的な考え方が日本と海外では違います。それは、両親(の責任)がフィフティー・フィフティーということ。 海外は共同親権が当たり前です。そこにも問題はいっぱいあるから共同親権の話に結びつけたくはないんですが、海外では、離婚しても実の父親であれば、特別な合意がなくても子どもは父親に会うべきだし、離れていても父親は子どもの世話をするべきだと考えます。子どもに、父親に会ってほしくないという女性もいますが、僕は反対です。もちろんDVの問題があれば別で、ケースバイケースですが、普通の父親だったら、です。 ――映画の中で、2人の子どもを育てるシングルマザーの方が具体的に数字を挙げて語っていました。子どもが小さい頃は正社員になれず、パート収入が月に8~11万円で家賃6万円に加えて食費・光熱費がかかり、元夫から子ども2人分で7万円の養育費をもらっても「楽な暮らしはできない」と話します。 そのシーンは、最初は入っていなかったんです。2022年冬に親しい仲間を集めて上映会をしたとき、映画を見ているみんなを後ろから見て、自分で気づきました。この映画には「数字」が必要。それがないと、本当の問題は理解してもらえない、と。取材を一回断られたシングルマザーに頼み込んで、匿名を条件にインタビューを撮らせてもらいました。
――具体的な数字を入れるほかに気をつけた点はありますか。 「かわいそうな話」ばかりでは誰も興味を持ってくれません。女性たちががんばっている姿を入れようと思いました。シングルマザーの多くは離婚した女性ですが、未婚で母になった人や、日本にいる外国人のシングルマザーも取り上げて、いろんな形があることを示そうと思いました。 取材では、シングルマザーの人たちに対して、外国人の自分が「上から目線」にならないように気をつけました。自分はこう思う、とは言わずに、「こういうふうな意見を聞いたんだけど……」と間接的に言ったりしました。相手のその瞬間の感情や心情、特に子どもたちの自然な表情・笑顔を撮るよう気をつけました。 ――映画では、戦後日本の家族や社会の変化についても触れています。 撮影をしながら、途中まで「はてな」がいっぱいありました。シングルマザーの問題とは何か、どう解決したらいいか。映画を作りながら、みんなに尋ねていたんです。日本の家族とは何か、どう変わったか、なぜ変わったか。おそらく日本人自身も知っているか「はてな」だと思うんです。 自分は外国人だからどうしても知りたくて、専門家の先生を探して聞きました。日本は(太平洋)戦争後に核家族化が進んで、家族の姿も考え方も、全部変わったという歴史を語ってくれました。そこはすごく大事だと思いました。 ――取材や撮影を進める中で、日本社会についてどんなことに気づきましたか。 無関心が多いということです。自分も無関心でした。 シングルマザーであることを隠そうとする人も多いです。偽の結婚指輪をしている人にも会いました。理由を聞いたら、「(母子家庭だと分かると)子どもが学校でいじめられるから」と言うんです。 日本には「出る杭は打たれる」というメンタリティーがありますよね。たぶんその考えが深く根づいているのだと思います。日本に22年暮らしてきて、そういうことは昔からありました。 おかしいなと感じても、自分の国じゃないから、外国人の自分は受け入れて適応しないといけないと思ってきましたが、ドキュメンタリーを制作していて一番気づいたこと、そして皆さんに知ってほしいのは、皆さんが当たり前だと思っていること、仕方がないと思っていることは、もしかしたら違うかもしれない、ということです。 あとは、もし周りの人が苦しんでいると気づいたら、手を差し伸べてほしいですね。人のSOSに気づくのは、とても難しいことですけれど。 そして(シングルマザーの)お母さんだけじゃなくて、生活に苦しんでいる人に言いたいことは、手を差し伸べてくれている人の手を、取ってほしいということ。お母さんたちに言いたいのは、一人じゃないよ、ということです。人間はもともと「村」の社会で生きてきたんだから、誰かに頼ることはOKなんだよ、と言いたいです。