日本のシングルマザーの貧困 豪州出身の監督が見た「豊かな日本で取り残された人々」
――撮影には大きな苦労があったそうですね。 最初に企画したのが2021年3月くらい。クランクインがその年の8月でした。 まずはシングルマザーがどこにいるか分かりませんでした。あまり会ったことがなかったし、特に日本では「自分はシングルマザーです」とか、あんまり言わないですね。 そこで、全国のシングルマザーのサポートグループにメールで連絡しました。日本語で書きましたが、返事をくれたのは1カ所だけ。一体誰なんだろうと思われたのかもしれません。返事をくれた唯一の団体が、作品に登場する一般社団法人「ハートフルファミリー」で、自身もシングルマザーで子育てをした理事の西田真弓さんが、撮影に協力してくれる女性たちを紹介してくれました。 ――シングルマザーのお坊さんが複数登場するのが印象的でした。 シングルマザーのお坊さんの一人は、子ども食堂を運営しているお寺の人でした。偶然かもしれませんが、お寺はもともと社会の中で支援を提供する場で、シングルマザーたちも行くような、シェルターの役割を担ってきたからかもしれません。海外での教会のように。 実は、「子ども食堂」の制度はまったく知らなかったんです。だから、お寺に話を聞きに行って撮影しながら、何のイベントなんだろうと、分からなかった。海外には(食料品を配る)フードバンクや、ホームレスのためのスープキッチン、シェルターもありますが、子どもに特化したカフェテリアは聞いたことがなかったんです。 お坊さんの女性も、最初はシングルマザーである自分のことをあまり話してくれず、子ども食堂のことしか話してくれませんでした。やむなく子ども食堂の映像を使おうと決めて調べてみたら「おお!」と驚きました。(シングルマザーの貧困問題と)思いきりつながりがあったからです。 そこで東京に850カ所以上ある子ども食堂の半分くらいに、メールで取材を申し込みました。400カ所くらいには申し込みをしたと思います。絶対にあきらめないぞと思っていました。返事があったのは4カ所。うち3カ所は断りの返事で、1カ所、世田谷の子ども食堂だけが協力しますと言ってくれて、何でも撮影させてくれました。 作品には海外(外国人)の専門家がたくさん出てきますが、わざとではないんです。日本のシングルマザーのことを研究して英語と日本語の論文を出している専門家に何人も連絡を取りましたが、ほとんど無視されました。手伝ってくれる人がなかなか見つからないのが大変でした。