考察『光る君へ』38話 中宮・彰子(見上愛)と近過ぎる敦康親王(渡邉櫂)の元服を急ぐ道長(柄本佑)…『源氏物語』という虚構が、現実に影響を及ぼし始めた
宮の宣旨藤に心打たれる
まひろに宮の宣旨(小林きな子)が声をかける場面は、しみじみと心に沁みた。 宮仕えは生活のためだろうと理解を示した上で、家に残してきた娘と「上手くいっていないのであろう?」と看破する。なぜわかるのかと驚くまひろに、私もそれなりに世のことは学んできたからの、と笑う。 『源氏物語』には、紫式部の曾祖父・藤原兼輔の和歌、 「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな」 (親心は真っ暗ではないのだが、我が子のためという道では迷ってしまうのだよ) これが、たびたび引用されている。宮の宣旨も当然『源氏物語』は読んでいる。思い悩む親心についてのこの歌が何度も出てくることから、まひろの秘かな悩みを見抜いたのかもしれない。そして、 「夫婦であっても親子であっても、まことに分かり合うことはできぬのではなかろうか。さみしいことだが……」 自分自身のこれまでを振り返っているのか、人生経験豊かな女性の表情に心打たれた。 職場でやっかまれる要素があり過ぎるまひろだが、今のところ直接的で苛烈な嫌がらせを受けずに済んでいるのは、女房たちを統括している宮の宣旨が、こうして一人ひとりに声をかけているからかもしれない。
父・兼家の野望そのもの
伊周の嫡妻・幾子(松田るか)からの報せを受けて駆けつけた隆家が見たものは、呪詛に心身を蝕まれた兄の姿だった。いや、呪詛ではない、己の心から何年も噴き出し続けた憎しみに食われたのだ。獣のように人形を嚙み砕く伊周に、隆家はなすすべもない。 道長は嫡男・頼通(渡邊圭祐)を呼び出し、あることを宣言する。この38話で一番動揺したのは、伊周の狂乱ではなくこの場面だ。 道長「我らが為すことは、敦成様を次の東宮に為し奉ること。そして、一刻も早くご即位いただくことだ」「本来、お支えするものがしっかりしておれば帝はどんな方でも構わぬ」「いかなるときも我々を信頼する帝であってほしい。それは敦成様だ」 「家の繁栄のためではないぞ、民のためだ」 自らの血を引く皇子を東宮にし、一日も早く帝にするという計画は、父・兼家(段田安則) が語った野望そのものである。娘を入内させた上級貴族としては当然であるし、支える者がしっかりしてれば帝はどんな人物でもいいという主張は、若き日(5話 )からブレていない。真の政とは家の存続だ、民におもねるようなことはするなという父の遺言(13話 )とも真逆の考えである。 しかし、兼家には己が抱いているのは野望だという自覚があった。この作品の道長が暴君になるとは思わない。しかし、己のやっていることは全て民のため、善き政をするためと信じ込んでいる独裁者ほど恐ろしいものはないのだ。なにしろそうした人物には罪の意識がない。 あと残り10話ほど……道長はどうなるのか。どうもならず善政のために力を振るうのか。
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