考察『光る君へ』38話 中宮・彰子(見上愛)と近過ぎる敦康親王(渡邉櫂)の元服を急ぐ道長(柄本佑)…『源氏物語』という虚構が、現実に影響を及ぼし始めた
道長と倫子の現在
孫の敦成親王を東宮に。道長は具体的に動き出す。臨時の除目で、道長の思いを反映した人事がなされ、それを受ける一条帝には道長の意図を察した表情が浮かんでいる。 源俊賢(本田大輔)、藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)、藤原行成(渡辺大知)。一条朝四納言、辞典にも載っているシナゴンの形態完成だ。 頼通を権中納言に昇進させた道長は、婿入り先を倫子(黒木華)に相談した。 「具平親王(ともひらしんのう)の一の姫・隆姫(たかひめ/田中日奈子)はどうだ」 私より頼通の気持ちを聞いてやってくださいという倫子に、 道長「妻は己の気持ちで決めるものではない」 倫子「まあ。殿も、そういう気持ちでうちに婿入りなさいましたの?」 道長「そうだ」「男の行く末は、妻で決まると申す」 実際、道長の「男は妻がらなり(男は妻で決まるのだ)」という言葉が『栄花物語』に記されている。この台詞のやり取りは下手をするとギスギスしそうだが、倫子を嫡妻として信頼し、当時の自分の気持ちを包み隠さず話す道長と、内心ムッとはしているがその信頼に応えて、左大臣・道長を支えてきた妻としての誇りを見せる倫子。現在の夫婦関係がよくわかる場面となった。ただ、 倫子「子どもたちのお相手を早めに決めて、その後は殿とゆっくり過ごしとうございます。ふたりっきりで」 道長の心に他の女が住んでいようと実際にその女と通じていようと、殿と共に老いてゆく、最後までそばにいられるのは嫡妻である自分である。それをよりどころとする倫子がすこし切ない。そしてふと、宣孝(佐々木蔵之介)が亡くなったとき、妾であるまひろには弔いが全て済んだ後に報せが来て、臨終の様子さえ教えられなかったということを思い出したのだった。
清少納言と和泉式部と紫式部
「宿命・密通・不義・幸不幸・出家」 まひろの構想メモから、物語は最終段階に近づいているとわかる。そこへやってくる道長……君、仕事に疲れるとまひろと会話してエネルギーチャージする癖がついてるな? 賢子(梨里花)がもうすぐ裳着(女性の成人の儀式)を迎えるという話になり、まひろが、 「娘の裳着に左大臣様から何かひとついただけないでしょうか」 と申し出る。本来であれば、成人の儀式には両親が揃っていてほしいものだが、左大臣・道長がまひろの実家で行われる公的な儀式に立ち会うことはさすがにできない。なので、せめてなにか下賜されることで賢子の人生の節目に、実の父とのつながりを持たせたいと思ったのだろう。 道長「ん? ああ。なにか考えておこう。そうだ。裳着を終えたら、お前の娘も藤壺に呼んではどうだ。お前の娘だ、さぞかし聡明であろう。人気の女房になるにちがいない」 あれっ。この言い方……道長は賢子が自分の娘だと気づいていると思っていたが、やはり気づいていないのか? どっち? これ、賢子が宮仕えするまで判明しないやつだろうか。 そして中宮・彰子の藤壺に、人気の女房になりそうな人として、あかね(泉里香)──和泉式部がやってきた。もう最初から面白い。一挙手一投足がいちいちセクスィー。モテなどを意識しないでやっているとしたらナチュラルボーンセクスィーだ。 38話では、清少納言と和泉式部と紫式部、文学者それぞれが「なぜ自分は書くのか」という立ち位置を明らかにする。大切な人の輝きを未来永劫伝えるため、亡き恋人との思い出をアウトプットし己の悲しみを癒すため、ビジネスとして依頼されたため、しかし、 「書いておれば、諸々の憂さは忘れます」 物を書く、作品を生み出す人は「わかる……わかるぞ、まひろ!」と思ったのではないか。
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