孤独と熱意が人間性を育む――米津玄師が宮﨑駿から受け取ったもの
曲を作る営みは変わらないが、曲を届ける環境は変わってきた。ライブツアーは大規模になり、関わる人の数も増えた。そこに人間的なつながりの豊かさを感じることはあるのか。 「それは本当にそうですね。いろんな人間たちがまわりにいてくれることによって、自分がかろうじて成立していると思います。自分が何をしてるかというと、たいして何もしてないんですよ。曲を作って、絵を描いて、ライブして。労働量的にはたいしたことない。でもそれがないことには何も始まらない、そういう感じがするんです」 「昔、遠洋漁業に出る時に、幸運と安全の守り神として船で猫を飼うしきたりがあったらしいんですよ。たとえどこまで行っても無事に帰って来られるようにという、おまじないみたいな存在として、一匹の猫を乗せる。自分を取り巻く環境に置き換えてみると、いろんな人が船を漕いでくれて、俺はその船に乗っている猫なんじゃないかと思うんですよね。別に、俺じゃなくてもいいんです。働いていく限り、中心にいるやつも誰でもいい。誰でもいいけれども、自分がここにいることによって、この船は絶対に沈むことはないという、そういう存在であり続けることが大事なんじゃないかと思います」 「音楽や映画の素晴らしさは、見たり聴いたりすれば明確に分かるけれど、数値化されるものじゃないですよね。結局のところブラックボックスであって、作ること自体は誰にでもできるんです。映画はもう少しいろんな信用が大事かもしれないけど、音楽を作ることは誰にでもできる」 しかし、ブラックボックスを信じる人がいなければ、船は動かない。 「だから、信じてくれる人がいるから幸運のお守りでいられるんです」 米津玄師(よねづ・けんし) 1991年生まれ。徳島県出身。音楽家、イラストレーター。ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年に本名の米津玄師での活動を開始。最新シングル「地球儀」が発売中。