株の相続税はいくらかかる? 評価や計算方法、節税について税理士が解説
2. 株にかかる相続税の計算例
相続税の計算例を紹介します。ここでは、上場株式C株10,000株のみを相続、かつ法定相続人が1人の場合を見ていきましょう。 C株の株価を調べ、以下の数字がわかったとします。 ①相続発生日の終値:9,700円 ②相続発生月の毎日の終値の月平均額:9,500円 ③相続発生月の前月の毎日の終値の月平均額:9,200円 ④相続発生月の前々月の毎日の終値の月平均額:8,600円 ①~④のうち最も低い金額を採用しますので、ここでは④で計算します。 C株の相続税評価額 = 8,600円 × 10,000株 = 8,600万円 相続税 =(8,600万円 - 法定相続人1人の場合の基礎控除3,600万円)× 相続税の税率20% - 控除額200万円 = 800万円 相続税の申告と納税は、相続発生から10カ月以内に行う必要があります。発生日が2月16日であれば、C株を引き継いだ人は12月16日までに800万円の相続税を申告・納税しなければいけません。 なお、人によっては「納税資金が不足しているので、株を売却したい」と考えるかもしれません。ただ、株を売却する場合は、手数料の他、売却益は譲渡所得として20.315%の所得税と住民税がかかる点に注意する必要があります。 他方、相続した株を、相続発生から3年10カ月以内に売却した場合には、売却した株に係る税金を安くできる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の制度があります。
3. 株の相続に関する節税対策
株の相続税も他の財産同様、事前に対策を打つことで節税も可能です。具体的な節税対策を紹介します。 3-1. 生前贈与 生前に株を贈与して相続財産を減らし、節税を図る方法です。安い株価のときに贈与できる、株を贈与することで配当金を受け取る権利も渡せるなどもメリットとして挙げられます。ただし、生前贈与が成立するには、株をもともと持っている人に贈与ができる判断能力があると認められた場合に限ります。 贈与には暦年贈与と相続時精算課税制度の二つの方法があります。なお、これらは併用できない点に注意が必要です。 ■暦年贈与 暦年贈与とは、年間110万円の基礎控除を活用した方法です。贈与税がかからない110万円以内で株の贈与を一年ずつコツコツ行い、相続財産を減らせば節税につながる可能性があります。なお、生前贈与加算(相続税の評価額に特定の期間内に暦年贈与された財産を加算すること)の対象となる期間は2024年からは段階的に7年以内となります。 贈与のタイミングによっては株価が高いなどで節税につながらないことがあるため、贈与する際には事前に贈与税がいくらかかるか試算するとよいでしょう。 ■相続時精算課税制度 相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対し、財産を贈与した場合に選択できる制度です。 この制度には、年間110万円以下の贈与であれば非課税となる「基礎控除」と、この基礎控除を除く贈与財産が累計2500万円まで非課税の「特別控除」という2つの控除があります。特別控除の累計が2500万円を超えた場合、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。 また相続が発生した場合には、「特別控除」(基礎控除を除く累計2500万円の控除)は相続税財産に加算されます。ただし、この加算金額は贈与時の時価になるため、株を贈与した後に株価が上昇したとしても贈与時の時価で相続税が計算されることになります。そのため、贈与後に株価が大幅に上昇した場合は、相続税の大きな節税につながります。 相続時精算課税制度を選択するときは、事前に贈与税と相続税をともに試算することをおすすめします。難しい場合には、税理士に相談するとよいでしょう。 3-2. 自社株の評価額の引き下げ 上場していないオーナー経営者の株を相続する場合は、なるべく株の評価額を引き下げておくのも有効な方法です。 例えば、配当金額を下げる、役員報酬を上げる、含み損のある不動産を売却する、発行済株式数を増やす(純資産価額方式で株価を算出する場合)などがあります。 ただし、いずれの方法も適切な範囲内で行わないと、損金の算入が認められないなどで節税につながらない可能性があるため注意が必要です。 3-3. 各種特例の活用 株の相続に関する節税対策には、国の支援策としての税制の特例を活用する方法もあります。 ■法人版事業承継税制 法人版事業承継税制とは、非上場株式の贈与もしくは相続が、事業の後継ぎに対して一定の要件を満たした状態で行われたときに、その非上場株式の贈与税や相続税の納税が猶予・免除される特例です。 ■相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例 相続した非上場株式を、証券取引所を通さずその発行会社に譲渡し、発行会社から対価として金銭等を受け取った場合、一部の金額が配当所得とみなされて税金が課される場合があります。このときの配当所得は総合課税となるため税率は累進課税となり、譲渡所得金額(発行会社から対価として受け取った金銭等から取得費や譲渡費用を控除した金額)に応じて最高55.945%の税率で計算されます。 一方で、一定の条件を満たす場合には、配当所得とみなさず、譲渡所得として課税する特例があります。この場合、税率が譲渡所得金額の20.315%と一定になるため、配当所得とみなされる場合よりも課税負担が減りやすくなります。特例が適用されるには、相続発生から3年10カ月以内に行われた譲渡であるなどの要件を満たす必要があります。 なお、次に紹介する「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の適用を併用することも可能です。 ■相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 相続財産を譲渡した場合、相続税を負担した相続人の税負担を軽減するために、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」があります。 前述したように、譲渡による所得が発生した場合、譲渡所得金額に応じて税金が課せられます。株の場合の譲渡所得金額は、発行会社から対価として受け取った金銭等から取得費や譲渡費用を控除した額です。 この特例が適用されると、取得費に相続税の一部を加算でき、譲渡所得金額がその分下がるため、譲渡によって発生する所得税が安くなります。適用されるには、譲渡が相続発生から3年10カ月以内に行われているなどの要件を満たす必要があります。