なぜ40歳の松井大輔は横浜FCからベトナム1部サイゴンFCへの移籍を決断したのか?
新型コロナウイルス禍が考慮された特例で、今シーズンはJ2への降格がない。引き続きJ1の舞台で戦えるチャンスがあるなかで、自身のここまでの軌跡は「毎試合しっかり出て、結果を残すことがプロのサッカー選手」という哲学に相反するものだったのだろう。 もちろん逃げるわけではない。これからも求め続けていく「厳しい環境」が、完全移籍のオファーが届いたサイゴンが戦う、ほとんど未知の舞台でもあるベトナムにあると信じて再び海を渡る。 近年のベトナムはタイとともに、代表チームの躍進にけん引される形で老若男女がサッカーに熱狂している東南アジアの国となる。代表戦のテレビ視聴率は70%を大きく超え、試合終了後は国旗を握りしめたファンやサポーターが町中にあふれ返り、狂喜乱舞する光景が常態化している。 記憶に新しい戦いでは昨年1月のアジアカップ準々決勝で対戦した日本代表が、後半に獲得したPKの1点だけで辛勝した。カタールワールドカップ・アジア2次予選では、UAE(アラブ首長国連邦)代表や西野朗監督率いるタイ代表を抑えて、3勝2分けの無敗でグループGの首位に立っている。 国内に目を向ければ、1980年に創設されたセミプロリーグが2000年からプロ化され、最上位のVリーグ1には14チームが所属している。国際大会におけるクラブチームの成績に基づいて算出される、AFC(アジアサッカー連盟)クラブコンペティションランキングを見ると、ベトナムは2018年の23位から最新の2019年では16位へ急浮上。代表効果が国内クラブチームにも波及している真っ只中にある。 一方で選手の平均年俸は日本円で約160万円と、周辺の東南アジア諸国と比べて著しく低い。これは収入の大半を契約時に受け取る契約金が占める、ベトナム独自の形態が取られているためで、例えばポルトガルのチームや札幌でプレーしたベトナムサッカー界の英雄、FWレ・コン・ビンはハノイFCに在籍した2011シーズン以降の2年間で、同じく約7500万円を受け取ったとされる。 松井が移籍するサイゴンは2011年に創設された新興チームで、2016シーズンにVリーグ1へ昇格。開幕直後の4月にホームタウンを、北部のハノイ市から南部のホーチミン市へと移転した。約2万5000人収容のトンニャット・スタジアムを本拠地としている。 Vリーグ1は14チームがまず1回戦総当たりで戦い、上位8チームが同じく1回戦総当たりのチャンピオンシップグループで覇権を争う。サイゴンは前者を6勝6分け1敗でトップ通過したものの、後者では3勝1分け3敗と失速。それでもトータルの成績で争われる最終順位ではクラブ史上最高の3位に食い込み、来シーズンのAFCカップ出場権を獲得している。