「やせ薬」がアルコール依存症に効く可能性、禁煙や薬物依存症の治療の助けにも
最大の疑問
これまでのところ、GLP-1薬を物質使用障害に使う動物実験の結果は非常に有望であり、人間を対象とした初期データも肯定的だと、米オクラホマ州立大学生物医学イメージングセンター所長で、薬理学・生理学の教授を務める神経科学者のカイル・シモンズ氏は言う。 「しかし、これがアルコール使用障害に対する安全で効果的な治療法だと自信を持って断言できるような、ゴールドスタンダードとなるランダム化比較試験はまだ存在しません」とシモンズ氏はくぎを刺す。 有効性に関する課題のほかにも、疑問は残っている。「それぞれの物質(の使用障害)や個人に対して、どのような処方や投与のしかたが最も適しているかについては、まだ知るべきことがたくさんあります」とグリグソン氏は言う。 レジオ氏のような専門家はまた、人が誘惑に直面した際に、GLP-1薬が脳の回路にどのような影響を与えるかについて詳しく知りたいと考えている。こうした問題を調査するための臨床試験は現在、NIHなどの医療機関で進められている。
依存症治療の未来?
さらなる研究、特にランダム化比較試験による成果をもとに、GLP-1薬が依存症治療の選択肢を広げてくれることを、専門家らは期待している。 「GLP-1薬がアルコール使用障害に有効だと判明すれば、すぐに依存症の治療で最も広く使われる薬になるでしょう」とシモンズ氏は言う。 シモンズ氏は、GLP-1薬が依存症の治療薬として期待されている現在の状況は、1990年代にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)がうつ病治療に画期的な進展をもたらしたときのことを思い出させると述べている。 SSRIの登場により、「うつ病の治療やうつ病に対する人々の見方は根本的に変わりました」と氏は言う。「人々がうつ病を生物学的なプロセスとして捉えるようになり、偏見も減りました。依存症もまた生物学的なプロセスです。依存症の治療がセマグルチドによって変わる瞬間が今、われわれの目前に迫っているのかもしれません。そしてそれは、間違いなく歓迎すべきことです」
文=Stacey Colino/訳=北村京子