世界最古のワインは赤?白? 実はそのどちらでもないんです
「ワインを飲む楽しみの半分は、ワインについて語ることである」(作家モーリス・ヒーリー)。ワインの歴史はなんと8000年。発祥の地についてはさまざまな議論がされてきましたが、現在いちばん有力な説は? ワインスペシャリストの渡辺順子氏による日経ビジネス人文庫『「家飲み」で身につける語れるワイン』から抜粋します。 【関連画像】 ●「オレンジワイン」の正体 一時期よく耳にした「オレンジワイン」は、まるでオレンジから造ったような色味と独特な風味のワインです。 もちろんオレンジから造ったものではありません。「白ぶどう」から造られた世界最古のワインなのです。その誕生は古く、新石器時代までさかのぼります。 ワインの誕生の時期や場所については諸説あります。 世界最古の文明と言われるメソポタミアやエジプト、イスラエルやギリシャなどが「我が国こそワインの起源」と名乗りを上げてきたなか、現在、発祥の地として最も有力視されているのは「オレンジワイン」が生まれたジョージアです。 長年ワインの歴史を調査している米国科学アカデミーは、ジョージアで8000年前のワインの壺が見つかったと発表しました。300リットルのワインが貯蔵できる素焼きの壺など、歴史を揺るがす品々が発掘されたのです。 ジョージア国立博物館とトロント大学の共同プロジェクトで発掘が進められていた2015年、ジョージアの首都トビリシから南へ約30~40キロ、小高い丘の一角に円形の家が立ち並ぶ村の跡地が発見されました。同時に土の中に埋め込まれていた大きな壺の破片が掘り起こされ、これが世紀の大発見となりました。 壺の内側には、ワインだけが併せ持つ4つの酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸の付着、さらにぶどうの装飾が施された壺の外側にはぶどうの花粉が確認され、ワインが造られていたと確信されました。 発見から2年後の2017年、放射性炭素年代測定により、壺が使用された時期は紀元前6000年から5800年だと分析されました。それまで最古と思われていたイランのザグロス山脈で発見されたワインの土器より1000年も前です。文字が発明される3000年も前、鉄器時代より5000年も前に、ワインが造られていたと判明したのです。 しかも、壺が埋まっていた村の土壌にはぶどうの種や茎はなく、栽培していた痕跡も見当たらず、考古学者は、ぶどうの栽培と醸造が別々の場所で行われていたと考えています。ぶどう栽培は日射がよく栽培に適した地で行われ、収穫後は涼しい場所に運ばれ、そこで醸造が行われていたと思われます。 その後も、8つの大きな壺が掘り起こされ、すでに大規模なワイン生産が行われていたようです。 この時代、飲料は動物の皮で作った皮袋に入れていましたが、動物の皮では腐敗が起こりやすくワインの風味が損なわれてしまうため、蜜蠟(みつろう)でコーティングした土器に保管していました。 この世紀の大発見は欧米で大きく取り上げられ、高度な生活様式を持っていたことに多くの関心が集まりました。 さらに後の調査で、壺に入れたワインを約2年間も熟成させていたことがわかりました。出来立てのワインはタンニンが強く渋みがありますが、数年寝かすことでまろやかな味わいになります。ちょうど2年ほど寝かすことで飲み頃を迎え、豊潤な香りが際立つのです。