汗水垂らした苦労を観客は感じ取ってくれる――大沢たかおが語る日本のエンターテインメントへの危機感
本作はAmazonスタジオが製作する初の邦画作品となった。また、防衛省・海上自衛隊の協力をとりつけ、邦画では初めて撮影に実物の潜水艦を使用した。 「たまたま僕の知り合いに関係者がいて、その人づてで相談し、最終的には安倍元首相や当時の官房長官、防衛省・海上自衛隊のみなさんのご理解をいただけました。僕のプロデューサーとしての仕事はそこまで。演じる側でもあるし、脚本にまで口を出し始めたらめちゃくちゃ細かくなっちゃうので」 大作クラスの邦画において、出演俳優が表立ってプロデューサー陣に名を連ねるケースはあまり多くない。 「『この人はこれだけをやればいい』という考え方は古い気がする。監督が芝居をやってもいいし、俳優が製作をやってもいい。実写映画が厳しいなか、どんな方法でもいいから次の一手を見つけなければ」
いざ撮影が始まると、現実の世界でさまざまな事件が起こった。 「ロシアとウクライナの問題や安倍さんの事件が起こってしまった。短い時間で世界が変わっていく様子を目の当たりにしながら現場にいました。正直、今も複雑な思いがある。基本的にはエンターテインメントとして楽しんでもらう前提の作品ですが、運命というか、何か見えざる力に『やれ』と背中を押されたような感覚もあります」 「長大な物語やシリーズものも、愛されるものは愛される。こちらが期待に応えるべくハードルを上げていけば、もっと多くのお客さんに見てもらえるかもしれない。そんな新たな期待もあります」
「いぶし銀」とは言われたくない
ヒットは狙っても確実に生み出せるものではない。それでも大沢には経験に即した持論がある。 「サプライズがあるかを考えます。今これが世の中に流れたら、みんなが『おっ!?』と思うかな、と。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)も『キングダム』も、最初はヒットするなんて思っていなかったし、否定的な意見のほうが多かった。『JIN-仁-』なんて、当時はドラマ低迷期と言われていた頃でしたし、周囲は『タイムスリップの話なんてヒットするはずない』と猛反対。でもそうするとチームが一致団結するんです」 「自分たちが現場を楽しんじゃったような作品は、お客さんに評価されない。『キングダム』も『沈黙の艦隊』も『しんどいな』『これで正しいのかな? 間違ってんのかな?』と悩みながら、雲をつかむような思いで現場にいた。不安だし、その日の撮影が終わっても爽快感なんて1ミリもない。監督も毎日現場で悩んでいる。そうやって汗水垂らした苦労をお客さんは『面白いじゃん』と感じ取ってくれるのかもしれない」