汗水垂らした苦労を観客は感じ取ってくれる――大沢たかおが語る日本のエンターテインメントへの危機感
勢いを維持する韓国のエンターテインメントに対する危機感もある。 「2003年に映画館で『殺人の追憶』(ポン・ジュノ監督、日本公開は2004)を見た時の衝撃が今でも忘れられない。その日のうちにあちこちの知り合いに電話して騒いでしまったほどでした――あれから20年。彼らは通貨危機も経験して、文化を国策として、みんなで『後がない』と思いながら作品を作ってきた。そこがまず日本とは違う」
トム・クルーズの映画と自分の映画のチケット代が同じなら、がんばらない理由なんて何一つない。これも昔から口にしてきた。 「トム・クルーズは何十年もがんばり続けて、俳優としても、製作者としても、よりものすごい存在になった。(仕事が)つまらないなんて思いながらやっていたら、死ぬ気で芝居をしてくる世界の俳優にかなうはずがない。6、7割の力では話にならないんですよ。各々が本当に自分の好きなことをやって現状を突破していかなければ、もっと厳しい時代を迎えてしまう。映画なら劇場で二千いくらを払っても惜しくないと思ってもらえるものを作る。ピンチをチャンスに変えて、世界に見てもらえるような作品作りを目指したいですね」
俳優が製作をやってもいい。プロデューサーとしての交渉
大沢の最新主演作は今秋公開の『沈黙の艦隊』。週刊漫画雑誌で1988年から足掛け9年にわたって連載されたヒットコミックの実写化作品だ。大沢は日米政府が極秘裏に建造した高性能原潜を略奪し、独立国家を宣言する艦長・海江田四郎を演じ、製作プロデューサーの一人も務めている。 「最初は『これを映画にできたらいいね』と、松橋真三さん(映画『キングダム』プロデューサー)と二人で、地味に始めたんです」 原作者への企画プレゼンも自ら行った。しかし、国際政治への問題提起をはらんだスケールの大きな物語を実写化するには、いくつかの壁があった。 「一つは予算。もう一つは核兵器の問題に触れるということ。で、ある時、Amazonスタジオさんに手を挙げていただいて、予算は何とかなりそうだと」