汗水垂らした苦労を観客は感じ取ってくれる――大沢たかおが語る日本のエンターテインメントへの危機感
大沢の出演作はキャリアの長さと照らし合わせると多くはない。2016年から18年の約2年間は、「仕事の話を聞くと苦しくなった」「がんばってもドキドキしなくなった」ため俳優活動を休止していた。しかし、前述の舞台『王様と私』や映画『キングダム』(2019)のオファーが舞い込むと、再び演技への意欲をかきたてられた。 「コネもお金もないけど、人との出会いと強い引力を持つ作品に恵まれてきた自信があります。僕には本当にそれしかない。とても感謝しています。いくら『忘れられたくない』としがみついても、そりゃあまり作品に出なければ忘れられますよ。流行り廃りのある水商売だし、人気が続くなんて思い込むのは勘違い。いつか辞め時が来るのかもしれない。そんな覚悟もしています」
6、7割の力では、世界の俳優にかなうはずがない
昭和の終わりにモデルとなり、平成に入って俳優としてブレークを果たし、独自のペースで令和の今日までを駆け抜けてきたが、俳優の労働環境は「確実に悪くなっている」と彼は言う。 「映画もテレビドラマの現場も昔より衰退したし、ヒットするコンテンツも限られてきた。産業としての元気がないなか、家庭を持つ人たちの悲鳴も耳にします。才能がある若い子が、何だか無駄な時間を費やしているように見える時もある。この業界にはいろいろな問題があるのに、長らくそこにふたをして前に進もうとしてきた。僕自身にも反省はあります。安易に口にして、思いもよらない誰かを攻撃してしまうことになるのは本意じゃないから、今は具体的には言いません。ただ、問題がなかったのなら、今頃、日本のエンターテインメントも自分ももっと世界に出ていたはず。アニメと漫画だけには頼れない。だって、僕は実写の人だから」 「僕一人で叫んでも『生意気だよね、変わってるよね』と言われるだけ。厳しい現状を変革するには、本当はルールや価値観の根底から見直さなければいけない。そこが難しい。システムというのは一つを変えればいいわけではないですから。変わるためには痛みを伴う。それでも変わらなきゃいけない時期だと思う。僕も自分ができることからやっていきたい」