「カーボンニュートラル」と「脱炭素」の違いは? 温暖化対策のキーワードを整理してみた
世界的に大きな関心事となっている地球温暖化対策。「カーボンニュートラル」や「脱炭素」といったキーワードが連日のようにメディアで取り上げられている。 日本政府も「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。企業は「カーボンニュートラルチャレンジ」や「脱炭素経営」などのスローガンを掲げて取り組みを加速させている。 そんな中、筆者がある企業の環境担当者と話をしていたときに「カーボンニュートラルと脱炭素に違いはあるのだろうか。印象としては“プラマイゼロ”にすると前者と、“完全にゼロにする”後者といった違いがありそうな気がするが…」と疑問を投げかけられた。 言われてみれば確かに、英語と日本語の違い以上の何かがあるように思えるこの2つのキーワード。そもそも「ゼロカーボン」や「ネットゼロ」など、地球温暖化対策のテーマを扱った記事や文書を見ていると、他にもさまざまな用語・略語が入り交じる。国や識者の意見を聞きながら整理した。
「低炭素」から「脱炭素」が世界の流れに
環境問題に関する国連の本格的な会議は1972年からあり、92年にはブラジル・リオデジャネイロで「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」が開かれた。温暖化が地球環境に対する危機だと認識され、170を超す政府が一致して対策に取り組むことを確認した。 97年には国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)が日本で開かれ、二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガスの削減行動を義務化する京都議定書が成立した。ただし、この当時は排出量を少しでも減らす「低炭素」が目指されていた。 「まず、脱炭素に関しては低炭素との対比から見ていく必要があるでしょう」 こう話すのは、気候科学を専門とする東京大学未来ビジョン研究センター教授で、国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員の江守正多さんだ。 江守さんは「Googleトレンド」で低炭素と脱炭素、カーボンニュートラルの検索数の変化を示しながら解説してくれた。データのある2004年以降で見ると、低炭素の検索数は2008年7月から大きな山となり、しばらくは残る2つの用語よりも高い状態を持続していた。 「この年に北海道洞爺湖サミット(第34回主要国首脳会議)があり、当時の福田康夫首相が『低炭素社会・日本』などを打ち出したからですね」 その後、2015年にフランスで開かれた「COP21」で温室効果ガス排出削減の流れは加速した。京都議定書では削減義務が課されなかった中国やインドなどの発展途上国を含めた各国が、「世界平均気温を1.5~2℃に抑える」取り組みを進めるパリ協定が成立。この目標達成には低炭素では間に合わず、脱炭素が求められるようになった。 脱炭素は英語の直訳で「Decarbonization」。パリ協定では同じ意味合いの言葉として「non-carbon」や「zero-carbon」の単語も登場する。また、パリ協定の長期目標の意味を科学的に評価したIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の「1.5度特別報告書」では、温室効果ガスの人為的な排出量と削減・吸収量を差し引いた正味(net)で2050年前後までにゼロにしなければならないという意味で、「net zero」の用語が多用されている。