【後編】再登校支援で批判を浴びたスダチの主張 自治体と民間企業の連携、文科省の見解は?
親を信頼しているからこそ子どもは不登校になれる
文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、小・中学生の不登校は11年連続で増加し、過去最多の34万6482人となった。子どもが不登校となり不安を抱える保護者も多く、近年では「再登校支援」をサービスとして提供する民間事業者が登場している。しかし、こうした「不登校ビジネス」には批判の声もあり、後編ではその問題点について心理や法律の専門家に取材。渦中のスダチにも話を聞くことができた。 【写真で見る】波紋を呼んだ「不登校ビジネス」、専門家はどう見ているのか? 板橋区と不登校支援事業者・スダチとの連携に関するトラブルを機に、世間の注目を集めた「不登校ビジネス」。とくにスダチのように「短期間で再登校」「不登校を解決する」などをうたう事業者らに対する批判の声は多く、実際に支援を受けたものの逆に親子関係が悪化したなどの証言もある(詳しくは前編を参照)。 主に不安視されているのが、再登校を目指す考え方や、その支援メソッドだ。 例えば、再登校支援サービスを提供するスダチ代表取締役の小川涼太郎氏は著書の中で、「不登校の根本的な原因は、正しい親子関係を築けていないこと」にあり、親は「ダメなことはダメ」という厳しさを持って子どもに接するとともに、愛情深く守っていくことが不可欠だと述べている。 こうした考え方を、心理の専門家はどう捉えているのか。医師・臨床心理士として、子どもの不登校やひきこもり等で悩む保護者のカウンセリングを長年行ってきた田中茂樹氏は、次のように話す。 「私は、不登校の解決は再登校ではないと臨床の現場で感じています。学校が個々に合った教育を提供できていないことによる不登校が増えているからです。そもそもカウンセリングの中で、親子に限らず夫婦、親自身の問題に光が当たることや、子どもの発達の問題が関係しているケースも多く、不登校の原因はさまざま。また、子どもが不登校になるのは、自分を守るためです。親との関係が良好で信頼感があるからこそ、子どもは安心して不登校を選べます。ですから『親子関係に根本的な原因がある』とする主張は、保護者を不必要に追いつめるものであると感じます」 また、スダチのメソッドでは、「スマホやデジタルゲームの禁止」「毎日の起床・就寝時間」などを親が決めて子どもに守らせることを求めるが、これを強行すると、子どもにとって家庭が逃げ場所ではなくなり、親子関係が悪化するリスクがあるという。田中氏は、大切なのは子どもが安心して家庭の中で安全に過ごせる環境を親が整えることだと強調する。 「不登校の問題で相談に訪れる親御さんの多くは、最初は『このままでは進学できない』といった焦りや不安を口にし、すぐに変化や結果を求めがちです。けれども面接を重ねるとしだいに『子どもは何に苦しんでいるのか』といった深いところに目が向き、腰を据えて子どもと向き合えるようになる。すると、子どもも今後進むべき道を自分で探し出すようになります。ただしそれには一定の時間が必要なので、短期間で解決とうたう事業者には違和感を覚えます」 また現在、スクールカウンセラーなどが不登校の子を持つ保護者に対して「子どもが元気になるまで見守りましょう」といったアドバイスを行うのが一般的だが、それでは不登校問題は解決しないとスダチは主張する。さらに、アメリカでは「見守る」のではなく、子どもに行動療法や認知行動療法を行うのが不登校支援の主流であり、スダチはこれに沿った手法を採っているという。田中氏は、この主張についても疑問を呈する。 「アメリカでは、行動療法を行うにしても、専門家が発達の偏りなども含めて子どもの状況を把握し、どんなアプローチがその子に合っているかを見立てたうえで実施しているはずです。ところが、スダチでは専門的なトレーニングを受けていない親が、スタッフの助言の下で子どもの行動や認知を変えるという方法を採用しています。そのように親が主体となるのはアメリカの不登校支援の主流ではないはずですし、専門家の見立てのない行動療法が可能なのだろうか、と思います」