【後編】再登校支援で批判を浴びたスダチの主張 自治体と民間企業の連携、文科省の見解は?
「選択肢はたくさんあったほうがいい。当社も選択肢の1つ」
では、「親を介して行動療法的な手法を用いていること」を疑問視されている点についてはどう考えているのか。 「現状、不登校のお子さん本人に直接アプローチするのは難しいため、親御さん経由で行っていますが、行動療法を専門とする大学教授や精神科医などにサポート内容に問題がないかチェックしてもらっています。80名ほどのサポートスタッフは専門資格を採用条件としていませんが、アメリカで心理士として引きこもり支援をしていた者もおり、そのスタッフからも助言を得ています」 契約の問題については、次のように説明する。 「メソッドが流出するとビジネスが成立しなくなるので、口外禁止条項を設けるのは当然のこと。ただし、不利益を被ったと感じた場合、親御さんが弁護士や消費生活センター等に相談を行うことまでは、私たちは止められません。また、当社のサービスが再登校を保証するものではないことやお子さんが暴れる可能性などについては契約書に明記しており、事前に口頭でもお伝えするなどリスク説明も行っています」 PRが誇大広告に当たるのではないかという指摘については、消費者庁から指導があったわけではないが、「誤解を招かないように」(小川氏)すでに対応を進めている。広告の表現を修正するほか、自社HPも11月半ばに変更を行い、「スダチは再登校をゴールとしていません」「3週間で子どもが自ら再登校するためのサポート」などの表現を採用した。 小川氏は、「これだけ不登校が増える中、親御さんが自身や子どもに合った支援を選べるよう選択肢はたくさんあったほうがいい。あくまで当社も選択肢の1つなのに、それを否定する人がいることは残念。できれば学校や医療とも連携したいですし、立場の異なる不登校支援者同士も手を取り合えるのが理想だと思っているのですが……」と語る。
選択肢が少なく、不安と焦りの中に置かれる保護者
不登校後の選択肢が十分でないことは、専門家も憂慮する。医師・臨床心理士の田中氏は、「不登校になると放っておかれてしまい、子どもの教育を受ける権利が守られていないため親も不安になる。教員は多忙を極めており、学校や行政から、学校外の学ぶ場や居場所につなぐ仕組みもない」と感じている。 実際、どこにもつながりがない不登校のケースが増えている。文科省調査によると、学内外でカウンセラーや民間団体などによる専門的な指導を受けていない不登校の小中学生は、2023年度は13万4368人(前年比2万151人増)に上った。 弁護士の傍ら教師として教壇に立つ神内氏は、学校制度にも問題があると指摘する。 「画一的な学校制度が不登校を生んでいる面もあるので、行政がもっと学校外の学びやコミュニティーの支援をする必要はあるでしょうし、制度自体も学びや進路の多様化を促す形に変わるべきではないでしょうか。例えば、複数年かけて進級することが一般的となれば、親は子どもの学習の遅れなどを今ほど気にする必要がなくなり、精神的な余裕を持てるはず。また、国が不登校に関する追跡調査を行っていないことも親の不安につながっていると思います。不登校の支援策や学校制度は、不登校経験者のその後のデータや、支援の有効性を示すエビデンスに基づいて議論されるべきです」 不登校ビジネスの騒動や不登校当事者の孤立について、文科省はどう受け止めているのか。文科省初等中等教育局児童生徒課の担当者は、「不登校ビジネスに関しては、文科省は一概に肯定も否定もできない立場であり、一事業者に対する規制権限もない。自治体は民間企業との連携については、これまで文科省が通知等で示してきた不登校支援の方針や教育機会確保法に基づき個別に判断してほしい」と語る。 一方、阿部俊子文科相は11月5日の記者会見の中で、不登校支援については教育支援センターにおいて、支援員が家から出られない児童生徒を訪問するアウトリーチ体制と、保護者を支援する体制を強化するため、必要な予算を2025年の概算要求に計上しているとした。 不登校の子を持つ保護者は、支援の選択肢の少なさや相談先へのつながりにくさから孤立し、不安や焦りの中に置かれている。そうした状況が頼るべき支援とのミスマッチを生んでいる面は大きいだろう。支援につながれず、不利益を受けるのは子どもたちだ。当事者である子どもと保護者の孤立を防ぎ、多様な選択肢の中から適切な支援を選び取れる環境の整備が急務となっている。 (文:長谷川敦、注記のない写真:ふじよ/PIXTA) 関連記事:【前編】板橋区とスダチの騒動で炎上「不登校ビジネス」何が問題視されたのか
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