「省庁再編」は成功してきたのか? 自民総裁選の争点、過去に学ぶ
内閣人事局はできたが
こうした弊害を省庁横断的に取り除こうとして2014年から内閣官房に「内閣人事局」がつくられた。画期的な改革で、各省の審議官以上約800人の人事異動は内閣官房長官ら政治主導で横串人事をやろうとした。 確かに設立の趣旨は立派だった。しかし、実際の運用過程になると、恣意的に官邸権力が人事を差配している現実が生まれている。官邸一極集中、官僚の忖度(そんたく)行動が生まれ、若手官僚は希望を失い、採用後数年内で3分の1近くが退職してしまう、人事の劣化現象が生まれている。
今後をどう見る
政治家にとって省庁再編に手を掛けるのは外から見ると政治力の現れとして、その成果は評価されがちだ。実現するならば、 厚生労働省などの再編もそうかもしれない。「量的に大き過ぎて大臣の監督が行き届かない。厚生系と労働系ではマッチングしないところが多い。なので再編したい」という理由付けは一見分かりやすい。 だが、官僚制の中、再編前から長年かけて築かれた「縄張り意識」は簡単に消え去る訳ではない。合体した1つの省を2つに分け元に戻して何が変わるか。外見上の改革で魂入らずの感が強い。こうした官僚風土を変えるにはどうすればよいのだろうか。 「省あって政府なし、局あって省なし」とされる国の官僚制を変えるには、新規採用段階から「日本政府職員」として一括採用し、計画的、体系的なジョブローテーションで省帰属ではなく、政府帰属意識を持つ職員として育てる必要がある。これは喫緊の課題で長年言われながら出来ていない改革だ。省庁の間仕切りを変えるだけの改革では問題の本質に切り込んだことにはならない。
総務省再編の議論は?
さらに言えば、なぜ大騒動になった総務省の郵政系をめぐる不祥事に関する総務省再編案は出てこないのか不思議だ。菅首相の長男が関わるので各候補は忖度しているのか。 総務省は2001年改革で新たな省として生まれた。しかし、現在も旧自治省系、旧総務庁系、旧郵政省系が独立して官僚の採用を行っており、採用後の人事も相互に独立して行われている。これでは旧省庁意識は抜けず、1つの総務省になることはあるまい。屋根は共通だが、中の部屋は別々、フロアまで変えて住んでいる。 こうした実態をきちっと検討してみることなく、政治家の成果として省庁再編を唱えても大きくは期待できまい。私たち国民は各候補者の主張が外観上の見せかけの話なのか、もっと奥深い真の改革の話なのか、注力しながら各候補の省庁再編論議を聞くべきだ。