耳の聴こえない女性がはじめて「ラフマニノフ」を「感じた」とき…マンガ『私たちが目を澄ますとき、』が描く、聴こえない世界の”音楽”
日本に聴覚・言語障害者は37.9万人
「『すべての人に、音楽のよろこびを。』なんて、やっぱり聴こえる人間のエゴなんだろうか。『すべての人』の人の中に大川さんは含まれていない…」 【マンガ】「私たちが目を澄ますとき、」無料公開はこちら 現在、日本に身体障害者手帳を持つ聴覚・言語障害者は37.9万人と推計されている(出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_b_r04_01.pdf)。聴覚障害とは音が聴こえない、または聴こえにくい状態のこと。厳密な区分はないものの、基本的には聴覚障害者のうち音声言語を獲得する前に聴力を失った人を「ろう者」、音声言語を獲得した後に聴力を失った人を「中途失聴者」、ある程度の聴力がある人を「難聴者」という。 言葉を音で覚える機会がなかったろう者は、音声での会話ができない人が多い。漫画『私たちが目を澄ますとき、』の主人公・大川芙美子も幼少期に完全に聴力を失い、声で話すことができないろう者。音声に代わる主なコミュニケーションの方法は手話と筆談だ。 そんな芙美子の夢は文芸翻訳家になること。アメリカにある聴覚障害者のための大学を卒業し、図書館でアルバイトをしながら翻訳コンテストに応募している。
“ろう者”と“音楽”
「声も音も全く聴こえないけど、文字の世界でなら聴こえる人たちの物語を翻訳できる」 そう思った芙美子が手に取ったのは、音楽が重要なキーアイテムになっている物語。ところが物語の序盤、主人公の恋人がピアノで『ラフマニノフ 前奏曲ト短調 作品23-5』を弾くシーンでつまずいてしまう。この曲を聴いたことのない芙美子には、弾き手が曲に込める想いを感じ取ることができなかったのだ。 そこで芙美子は生まれて初めて楽器店へと赴き、冴えない店員の相澤浩二に「ピアノを演奏しているところが見たい」と相談する。ピアニストでもある相澤は、「聴こえてない人のために弾くなんて…」と思いながらも“社会貢献”だからとラフマニノフの曲を弾き始めるのだが……。 「聴こえない世界には音楽は存在しない、聴こえない人には音楽なんてわからないというのは、重大な誤解です」 と話すのは、作者の詠里さん。作品を描くにあたってろう文化への理解を深めていくなかで、「ろう者の世界にも“音を楽しむ”という概念はあり、楽しみ方が私たち聴者とは違っているだけ」だと知ったという。