心が渇いた時にはいつも音楽が薬になった――サザンオールスターズ・原 由子が、桑田佳祐とともに歩んだ音楽人生
これまでも2人で意見を交わしながら音楽を作ってきた。桑田は「困った時は原坊頼み」と語る。 「サザンや自分のソロで曲作りに悩むと『ちょっといい?』と彼女に聴いてもらう。すると彼女がポンと的を射た意見をくれて、時には気になる箇所を譜面で起こしてくれる。一番近くに最強のポップな音感を持った人がいるんです」 桑田の歌詞には艶っぽい表現や刺激の強い言葉も登場する。原はこれまでに不安や不満を感じる場面はなかったのだろうか? 「そこはもう長年の経験があるので。若い頃は『ちょっとこれは』と意見したり『大丈夫かな?』と心配したりしたこともあったけど、後から、必ず『これでよかったんだな』と思えるようになった。音楽的なことでは、本当に100%、桑田を信頼しています」 「レコーディングでの桑田はひらめきの人。スタジオでのひらめきをすごく大切にしていますね。その場の空気やミュージシャンの演奏から、私が思いもしなかったようなインスピレーションが湧くことも。今回のレコーディング中も、急に『ラップを入れてみよう』とひらめいて、その場でさっと歌詞を書いて歌ってくれました」
新作は未来への希望や平和についての問いかけや今の世の中に対する思い、ロックにフォーク、ジャズや歌謡曲に童謡など多彩なアプローチで歌われた意欲作に。エリック・クラプトンへのオマージュや鎌倉の情景を歌った曲もあり、今日までの歩みの集大成とも感じられる。 心に初恋のメロディ 幼き日に覚えた夢のハーモニー 歳を取るのも悪くない 喜び悲しみ いつも 歌ってた (「初恋のメロディ」) 「初めてロックを聴いた頃の高鳴りや若さゆえの衝動。いつまでも大切な思いを歌に込めました。不安の多い昨今ですが、ひと時でもみなさんの心がほぐれたらうれしいです」 「どんなに世の中が変わっても、みんなでアイデアを出し合ってアレンジをして、一緒に演奏する楽しさは絶対に残ってほしい。デスクトップから生まれる音楽も楽しいけれど、生身の人と人が、目と目、息と声を合わせて演奏する音楽の楽しさをこれからも伝えていきたいですね」 時に力強く、時にのんびりと。マイペースで音楽と歩み続ける彼女は、来年、サザンでデビュー45周年を迎える。 「ここまで来たら『いつ辞めても』とは言いづらいかな(笑)。みんなで健康に、これからも楽しく音楽を続けていけたらと思います」 原 由子(はら・ゆうこ) 1956年、神奈川県生まれ。78年、サザンオールスターズのメンバーとしてデビュー。ソロアルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』が10月19日に発売。 --- 内田正樹(うちだ・まさき) 1971年生まれ。編集者、ライター。雑誌『SWITCH』編集長を経てフリーランス。