今、歌うために走っている――小田和正74歳、これからに向けて鍛え直す日々
「ラブ・ストーリーは突然に」をはじめ、多くのヒット曲を世に送り出している小田和正(74)。70歳を過ぎてからもライブツアーで全国を巡り、歌声を届けてきた。そんな小田もコロナ禍の自粛生活で、初めて思うように声が出ないという事態に直面した。今は歌うために、体を鍛え直している。50年を超える音楽活動を経て、時代の移り変わりをどう見ているのか。長く歌い継がれるのはどんな曲なのか。考えを聞いた。(取材・文:田中久勝/撮影:菊地英二/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/文中敬称略)
コロナ禍、もう衰えて歌えないのかと思った
都内のレコーディングスタジオ、隅に置かれたピアノを小田は弾き始めた。澄んだ声がスタジオに響く。2020年にデビュー50周年を迎え、この9月には74歳になった。みずみずしい歌声は年齢を感じさせないが、避けては通れない「老い」と格闘する日々をコロナ禍で過ごしていた。 「『どうやってその声を維持しているんですか』とよく聞かれるけれど、50代、60代、それから70代になっても、特にケアはしていなかった。風邪をひかないようにはしていたけど。ところが72から73になる時に、ああ、声がちょっと出にくいなっていう感じがあった。ちょうどコロナの影響で、家にこもる時間が増えて。人としゃべらないし、歌う機会もない。座っている時間が多くなったから、年齢もあって筋力が一気に落ちてしまった」 事務所のスタッフも「これだけ歌うことのない時間を過ごしたのは、人生で初めてのことだったと思います」と言う。年齢による変化とコロナ自粛が重なって、初めて声が出ないという危機に直面した。
「それまでは毎日腹筋をしたりしていたのに、コロナになってからいろいろなことをやめちゃったんだよな。声帯は筋肉だからもちろん歌って鍛えなきゃいけないんだけど、僕が思うに、声は体全部で出すんだね。歩いたりして体を動かさないと、歌うのは大変なんだと初めて分かった。もう衰えて歌えないのかと思って医者に聞いたら、『鍛えないと弱くなる。小田さんはいくら歌っても大丈夫』と言われたから、今は鍛え直し。初めて、歌うために走っています。これまではスタミナのために走っていた。どこまで回復するか分からないけど、こういうインタビューでも滑舌よく大きな声でしゃべらないと」 コロナ禍では、精神的にも「食らった」と語る。一方で、音楽に対する根強いニーズを再認識することにもなった。 「東日本大震災の時にも相当食らったんです。あの時は、音楽なんかやってたってどうにもできないんだ、という思いしかなかった。でも1年くらい過ぎて、『ああ、やっぱり音楽は求められている』という気持ちになっていった。だから今回も、ライブができなくなったりして、音楽は社会的に脆いものだけど、根強くみんなが求めてくれるという確信はあった。無観客ライブでも聴いてくれて、供給するほうも一生懸命あれこれ考えてね」