往復運賃1万円でも300万人が利用?「富士山登山鉄道」構想が紛糾する当然のワケ
では技術面が解決したとして、富士山登山鉄道は事業として成立するのだろうか。「中間報告」では収支分析に当たっての前提条件として、事業期間40年間、利用者数年間300万人、設備投資額合計1486億円、営業費年間34.7億円(人件費12億円、修繕費7.6億円、動力費2.1億円、その他経費13億円)とした上で、事業者から地方公共団体にして償却前損益の30%を納付するとしている。 運賃は破格の往復1万円を想定している。これは山梨県が2020年9月に行った調査で、国内の代表的な山岳観光地である立山黒部アルペンルートを参考とした1万円、海外の登山鉄道の運賃を参考とした2万円を提示して利用意向を探った結果である。 往復1万円の鉄道が「公共交通」と言えるかは難しいところだが、2024年夏から山梨県側で富士山入山料2000円の徴収が始まっており、設備の整備や保存管理の費用に充てられている。富士急バスが運行する河口湖駅・富士山駅~五合目間の路線バス往復運賃が2800円であることをふまえると大幅な値上げになるが、需要コントロールと保全管理の促進という目的上、ある程度の金額になるのはやむを得ないだろう。 ● 年間利用者300万人という 想定が厳しい理由 問題はその先だ。はたして年間300万人の利用があるのだろうか。中間報告の輸送量シミュレーションでは、1編成の乗車定員を60人(全乗客が着席)として、2編成連結で120人(同)を基本単位としている。 これを1日10時間計100往復した場合、1日の「輸送量」は1万2000人。年間280日営業した場合、年間336万人の輸送人員との計算だ。登山鉄道でありながら1時間10本、つまり、通勤電車並みの6分間隔で走るという。 需要予測の前提が公開されていないので何ともいえないが、この計算はあまりに雑でないか。計算では終日全列車がほぼ満員でないと300万人を達成できない。1万円の観光列車という性質上、着席利用を前提としているためピーク時に詰め込むという選択肢はない。