往復運賃1万円でも300万人が利用?「富士山登山鉄道」構想が紛糾する当然のワケ
● 構想実現の最大のハードル となる技術的な問題とは そもそもスバルラインに鉄道を敷設するという構想は、現在は反対派に与する富士五湖観光連盟が2008年11月に公表したものだ。この時は構想の域を出ないものだったが、上述の世界遺産登録を経て注目を集めたことで、連盟は改めて「富士山の環境と観光のあり方検討会」を設置し、2015年5月に報告書を発表した。 連盟が「転向」した経緯は稿を改めて取り上げるが、構想の当初から最大のハードルとされたのが技術的な問題だ。一般人でも想像できるように、富士山に鉄道を走らせるのは簡単なことではない。スバルラインの最急勾配は88パーミル(1000メートルあたり88メートル上る勾配)、最急曲線は半径27.5メートルだ。 鉄道に関する技術上の基準を定める省令は、最急勾配35パーミル、最小曲線半径100メートルとしている。また軌道(いわゆる路面電車)に関する軌道建設規程は最急勾配40パーミル、最小曲線半径81メートルと定めている。 もちろんこれは目安であり、やむをえない事情で基準を上回る場合は、安全の確保を前提に特別な認可を得ることができる。例えば、日本を代表する登山鉄道である小田急箱根鉄道線(旧箱根登山鉄道)には、最急勾配80パーミル、最小曲線半径30メートルが存在する。 だが、小田急箱根鉄道線は箱根湯本駅から強羅駅まで標高差445メートルを、3回のスイッチバックを用いて斜めに登っていくのに対し、富士山登山鉄道は標高差1000メートルをそのまま走るため、半径30メートルかつ54パーミルの第2ヘアピン、半径36メートルかつ65パーミルの14キロ地点など急勾配と急曲線が複合する区間が多い。 ● 積雪、雪崩、落石… 鉄道には厳しい環境 これだけならば技術で対応できるかもしれない。しかしここは、冬季はマイナス20度にも達し、雪と氷に閉ざされる富士山中腹である。冬季のスバルラインは洞門(雪崩から道路を守るトンネル状の覆い)の中でも厚さ2~3センチの氷が張り、洞門外は40センチ、多いときは2メートルの積雪を記録するため、通行止めになることも多い。 富士山登山鉄道構想は緊急車両の走行路を確保するため道路上に線路を敷設する「併用軌道」を前提としているが、路面からくぼんだレールの溝に雪や氷が挟まると脱線のリスクがある。