往復運賃1万円でも300万人が利用?「富士山登山鉄道」構想が紛糾する当然のワケ
山梨県は10月28日に富士山登山鉄道構想の「事業化に係る中間報告」と「技術課題調査検討結果」を公表した。富士山麓(県道707号線胎内交差点)と富士山5合目を結ぶ有料道路「富士スバルライン」上に、登山鉄道を整備するという大胆な計画をめぐって地元が揺れている。富士山のおひざ元である富士吉田市、富士五湖地域の市町村、観光協会、地元企業から構成される富士五湖観光連盟、富士登山道の入り口にある北口本宮冨士浅間神社、山梨県側の山小屋・売店が加盟する富士山吉田口旅館組合といった地元当事者が、山梨県の構想に真っ向から反対しているのである。富士山登山鉄道構想の概要と、実現に向けた課題とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也) 【この記事の画像を見る】 ● 登山鉄道構想の背景にある 富士山の世界遺産登録 この構想は2019年1月の県知事選で初当選した長崎幸太郎山梨県知事が公約として掲げ、当選後に設置した「富士山登山鉄道構想検討会」で検討が始まった。2021年に基本構想を策定すると、2023年度には知事政策局直轄の「富士山登山鉄道構想推進グループ」を設置。2024年3月の「富士山登山鉄道官民連携方策検討調査」を経て、今回の中間報告が取りまとめられた。 背景にあるのが2013年の富士山の世界遺産登録だ。富士山は遠くで見るからきれいであって、近くで見ると非常に環境が悪いと言われがちだが、登録にあたっても第37回世界遺産委員会決議と、それに先立ち発表されたICOMOS(国際記念物遺跡会議)の評価書において、富士山の保存管理を行うためにさらなる対策や改善が必要と指摘されてしまった。 インバウンドにも人気が高い富士山は、世界遺産登録前の2012年からコロナ前の2019年まで来訪者が2.2倍に増加しており、これに伴い自動車交通量も増加。登山シーズンの自家用車乗り入れ規制拡大により、同期間で普通車は3分の2に減少したが、規制対象外の大型バスは3倍に増加した。総車両数は減少したが、大型バスの増加で二酸化炭素排出量は6割近く増えている。 どの観光地にも共通することではあるが、富士山来訪者は特定の季節、曜日に集中し、著しい混雑を引き起こす。月別には登山シーズンである7~8月は70万人を超えるのに対し、1~2月は20万人を割り込む。また、その中でも平日と休日、お盆シーズンや三連休などで倍以上の差が生じる。 大量の登山者、観光客が集中することで、五合目以上における水・燃料の運搬増加、自家発電量の増加、トイレの処理能力低下などの環境負荷が増加している。つまり富士山の保存管理には、第一に需要の平準化と、そのために冬季の観光資源開拓が必要、というのが出発点にある。