登山鉄道でゆれる富士山「最大の懸念」は噴火…発信できるのは、「どこで」と「いつ」だけ
地下の水や気体がゆらゆら揺れるような「低周波地震」
2000年の秋に、富士山の地下で地震が頻発した。富士山のマグマが活動を始めたのではないかと、大騒ぎになった。 その原因は、富士山の地下の深さ15キロメートル付近にある「マグマに由来する流体」がゆらゆらと揺れたため、と考えられている。 その下の深さ約20キロメートルあたりには高温のマグマだまりが存在するが、この「マグマに由来する流体」とは、岩石が溶けたマグマではない。火道やマグマだまりの中にある水や二酸化炭素などの気体や液体が、地下深くの高い圧力下で存在する状態(超臨界状態という)で振動しているときに地震が起きたものと推測されている。あるいは、マグマに熱せられた地下水が起こすこともある。 このような地震は高周波地震とは違って、船に乗っているときのようにゆらゆらと、ゆっくり揺れる。柔らかい液体が動くことで、こうした揺れになるのだ。これを「低周波地震」という(図「富士山の地下で観測した高周波地震と低周波地震」の下)。高周波地震と違って周波数が低い、つまり振動数が少ない低周波地震の振動は、人体には感じられないほどきわめて微弱なものである。
低周波地震「噴火の休止、終わります」の合図
マグマ活動の初期には、高周波地震よりも先に低周波地震が発生する。山麓に張りめぐらされた地震計が、最初に感知するのがこの地震である。いわば火山の「休止期」が終了したことを示すサインともいえる。当然、富士山噴火においても前触れとなるもので、噴火予知では非常に重要である。 富士山の地下では現在も、数年間に1回の頻度で低周波地震が起きたり止んだりしている。そのくわしい原因はまだよくわかっていないが、現在のところ、マグマが無理やり地面を割って上昇してくる様子はない。 なお、低周波地震にはこのほかに、爆発的噴火にともなって発生するものもある。これは、火口直下の火道内に溜まっていたガスが突沸する際に、まわりの岩石を揺すって起きる地震である。日本では、桜島火山の南岳火口の地下1キロメートルほどのところでよく起きる。この地震が発生してから約1秒後に、爆発的なブルカノ式噴火が始まるのだ。 このあと火口から勢いよく火山灰が噴出するのだが、このタイプの噴火についての詳細は拙著『火山噴火』(岩波新書)を参照していただきたい。