登山鉄道でゆれる富士山「最大の懸念」は噴火…発信できるのは、「どこで」と「いつ」だけ
噴火を予知する「5つの要素」
噴火予知の内容は五つの項目からなる。噴火が いつ(時期)どこから(場所)どのような形態で(様式)どのくらいの激しさで(規模)いつまで続くのか(推移) に関する情報である。これを「噴火予知の5要素」という。 しかし噴火予知はいまだ研究途上にあり、現在の技術では、いつもこの5点すべての情報が得られるわけではない。「いつ(時期)」と「どこから(場所)」の項目しか発信できないことも多い。
時間経過で「噴火の様式」さえも変わってしまう
また、5要素の中身は、噴火の時間経過にしたがってどんどん変化してゆく。噴出するマグマの量や状態によって、噴火の様式さえも変わってゆくからだ。 それでも、できるかぎり多くの情報を集めて、噴火の進行とともに可能なかぎりリアルタイムで噴火予知を行うべく、専門家による努力がなされている。実は日本の噴火予知に関する技術は、世界の中でも最先端のレベルにある。地震予知と比べても、噴火予知は部分的にはすでに実用段階にあると言っても差し支えない。 以下では、噴火予知の5要素を明らかにすべくどのようなことが実行されているかを、具体的に述べてゆこう。
マグマが岩石をバリバリ割るような「高周波地震」
あらためていえば噴火とは、マグマが地下から地表へ噴き出すことである。圧力の高まったマグマは、火道を上昇する。このときに、地震が発生するのだ。 マグマの通路である火道は、ストローのようにいつも穴が空いているわけではない。たいていは、前回の噴火のときに火道を通過したマグマの残りが火道を埋めている。火道の中にはマグマが冷え固まった溶岩が詰まっているのだ。次の噴火が起きるときには、マグマは岩石を割って無理やり上がってくる。このとき、火道の周辺で小さな地震が起こるのである。 このような、地下の岩石をバリバリと割るような地震は「高周波地震」と呼ばれるもので、私たちが日ごろ経験するような地震である。高周波とは周波数が高い、つまり振動数が多い波のことだ(図「富士山の地下で観測した高周波地震と低周波地震」の上)。人の体にも感じられる地震なので「有感地震」ともいう。活断層が起こす地震とも似ている。 こうした地震を、火山体の周辺に張りめぐらした地震計によって観測するのである。地震計は人の体に感じられないようなきわめて微弱な揺れも電気的に計測できる機器である。 高周波地震はまず、地下10キロメートルほどのマグマだまり周辺で岩石が割れて起きる。そのあと、マグマの先端が岩石を割ってゆっくりと上昇していくとともに、地震が起きる位置は次第に浅くなっていく。これを観測することで、マグマの上昇する様子がわかるのだ。