ノムラID野球継承の楽天に旋風予感!
パ・リーグは、リーグ3連覇を狙う西武と、日本シリーズ4連覇を狙うソフトバンクが”2強”を構成して開幕を迎えそうだが、そこに割って入ろうとしているのが三木肇新監督で挑む楽天だ。 石井一久GMが中心になってオフに大型補強を仕掛けた。ロッテからFAで鈴木大地、金銭トレードで涌井秀章、オリックスからロメロ、そしてメジャー凱旋の牧田和久も獲得。ケガの治療で3月の開幕なら間に合わなかった新主将の茂木栄五郎が復帰し、腰痛で出遅れた岸孝之もスタンバイしている。 練習試合は6勝3敗2分けで日ハムと並んで勝率2位。チーム防御率3.96もリーグ3位の数字だったが、際立ったのは12球団中2位だった1試合の平均得点5.7得点と、3位だったチーム打率.269に代表される得点力だ。数字には反映されていないが、チームに浸透しているのが、それぞれの打者が最低限の責任を果たす、タイムリーなしで1点をもぎ取る”考える野球”である。 三木監督が言う。 「基本的には、選手の個性、持ち味を出しながら、自分の打撃をしてほしい。僕たちは、そこをサポートしていく。ただ、いろんなケース、状況がある。キャンプからずっと言っているのが、”10の3”の3割打者を目指しながら、”10の7”の残りの7つのアウトを活用すること。アウトを使って何ができるのか。そこを追求していきたい」 10回のうち3回ヒットを打てば、強打者の仲間入りとなる3割バッターである。裏を返せば、10回に7回は凡退しているわけである。その7つのアウトを「送る」、「返す」、「つなぐ」に変えることができれば得点力は間違いなくアップする。
練習試合の皮切りとなった2日の横浜DeNAとの試合では機動力野球を仕掛けてきた。2日は7回一死一、三塁の場面で1-0からの2球目に一塁走者の俊足のドラフト1位、小深田大翔にスタートを切らせ、打席の山崎幹史は、バントの構えからわざと空振りするというフェイクをやった。横浜DeNAのキャッチャー伊藤光は、冷静にどこへも投げず、小深田の盗塁が成功し、二、三塁となったが、局面によれば、バッテリーが慌てるケースが出てくるだろう。そうなれば得点につながる。無観客だが、他球団スコアラーが居並ぶ前で、「こんなこともある」と見せたことに意味がある。 翌3日には、さらに面白いプレーがあった。 2回無死二、三塁から辰己涼介のセカンドゴロで1点を刻むと一死三塁と続くチャンスに驚きのサインを出す。打者、太田光の1-0のカウントで、ピッチャーが足を上げると同時に三塁走者の銀次がスタートを切ったのだ。スクイズのタイミングでのスタート。太田は、ボールを叩きつけて三塁ゴロを放ち、銀次は楽々ホームインした。奇策とも言える”スクイズエンドラン”である。結局、楽天はタイムリーなしで2点をもぎとっている。 試合後、三木監督は、「作戦上のことなので深く話はできない」と種明かしはしなかったが「いろんなパターンで考えている」と言った。そして「10の7」のアウトを生かす手法についても「いろんな見解があると思う。そのなかのひとつ」と、持論を展開した。 これこそが三木野球のコンセプトだろう。 根底にあるのは、ヤクルト時代に薫陶を受けた故・野村克也氏の教えを継承するノムラID野球である。元ヤクルトの石井GMが三木氏を監督に抜擢、作戦コーチにはノムさんの息子の克則を持ってきた。投手コーチは伊藤智仁。”ヤクルトイーグルス”と揶揄されるコーチングスタッフだが、共通の野球観を持つのは強みだ。石井GM-三木監督のラインがどんな野球をやりたいかは明確である。 ロメロと鈴木大地が加入したことで打線はスケールアップしたが、一方で、その三木野球を体現できるメンバーも揃えた。9番起用の辰己、ドラフト1位で開幕1軍を手にした小深田、三拍子揃った2年目の小郷裕哉、ベテランの藤田一也、渡辺直人、ユーティリティープレーヤーの山崎らの脇役勢だ。