サムライ短距離陣400mリレーの敗因は衝撃のバトンミス失格だけではなかった…個々のピーキングの失敗
また日本は銅メダルを獲得したロンドン世界選手権とドーハ世界選手権では不調の選手を外して、決勝ではリザーブメンバーを入れているが、今回はそういう決断を下すこともできなかった。山縣だけでなく、リザーブを含めた代表メンバーの調子があまり上がっていなかったのだ。 そんな状態にもかかわらず、日本は「金メダル」の呪縛にとらわれていた。チームが導き出した戦略は「攻めのバトン」しかなかった。走力ではなく、バトンパスに頼らざるを得ず、イチかバチかの戦いだったように思う。 無観客のスタジアムでは、「悲鳴」も「声援」も選手たちの耳には届かない。日本にとっては厳しい結末になったが、「日本は金メダルをとれるんじゃないか」。そんなワクワク感をこの数年間届けたことは間違いない。それは選手にとっても、ファンにとっても幸せな時間だったような気がしている。 「うまくいくと信じてやってきて、うまくいかないことがたくさんあった。この結果が良かったとは絶対に言えないですけど、これもスポーツだなと思います」 山縣の言葉がすべてを表現しているように思う。夢の時間は終わった。今度は現実を受け止める番だ。 「実際はリレーでも個人でも世界と離されているのは結果的にも明らかになったので、それを深く受け止めないといけません」と桐生。「これで守りに入るのではなく、これからもどんどん攻めていって、いつか今回目指してきた金メダルを達成できるように頑張りたいと思います」と小池は前を見つめた。 東京五輪の金メダル・チャレンジは終わったが、アスリートたちには次の戦いが待っている。下を向かずに、金メダルを目指して東京五輪を戦ったことを誇りに、これからも世界に切り込んでいってほしいと思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)