なぜ期待の“最速トリオ”は男子100m予選で惨敗したのか…重圧と見誤った世界のレベル
無観客の新国立競技場には“魔物”が潜んでいるのかもしれない。期待が高ければ高いほど、そこに届かなかったときの失望感は大きくなる。31日に行われた東京五輪の男子100m予選を観て、ガッカリした人は多かったことだろう。 予選は全7組あって各組3着までと4位以下からタイム順で3人が準決勝に進むことができる。2016年リオ五輪では3人中2人が、2019年のドーハ世界選手権では3人全員が予選を突破。日本人スプリンターにとってはさほど難しくない“関門”のはずだった。 1組には今年の日本選手権王者・多田修平(住友電工)が先陣を切るかたちで登場した。今季は自己ベストを10秒01まで短縮するなど絶好調。しかし、持ち味のスタートダッシュが不発に終わり、10秒22(+0.2)の6着に沈んだ。 「自分のレースがまったくできなかったので、非常に悔しいです。隣の選手にスタートで前に出られて、力んだ走りになってしまいました。そこがもったいなかったですね」 9秒85の自己ベストを持つベイカー(米国)が隣のレーンにいたのは不運だったが、大激戦の日本選手権を制したときの“勢い”は感じられなかった。 9秒98の自己ベストを持つ小池祐貴(住友電工)は4組で4着。タイムは多田と同じ10秒22(±0)だった。3着の選手に0.01秒届かず、予選を通過することができなかった。 小池はシーズンベストが10秒13。今季はあまり調子が上がっていなかっただけに、「結構プレッシャーがかかるなかでしたけど、いまできる準備はしてきたので、これが実力かなと思います」と冷静に結果を受け止めていた。状態を考えれば、順当といえるかもしれない。 多田と小池はオリンピック初出場だが、山縣亮太(セイコー)は3回目。過去2大会(ロンドン、リオ)では予選を通過しただけでなく、大舞台で自己ベストも更新している。今年6月に樹立した日本記録の9秒95は、男子100m出場選手の今季ベストで6位タイ。日本人として89年ぶりのファイナル進出も十分に狙える位置にいた。 3組に出場した山縣は自己ベストで並ぶジェイコブス(イタリア)とトップ争いを演じるかと思われたが、予想外の結果が待っていた。 序盤はまずまず良かったように見えたものの、中盤以降はスピードに乗り切ることができない。ジェイコブスが9秒94(+0.1)で悠々とトップを飾ったが、山縣は10秒15の4着に終わったのだ。