「『昔のほうが良かった』なんて言う奴は気にしなくていい」――千原ジュニアが感じるお笑い界の変化 #昭和98年
芸能界は、もっともっときれいになっていくでしょう
芸能界がどんどん浄化されてクリーンになっていくのは歓迎すべきことなのか。「きれいすぎる水には魚が棲めない」と言うが、この先の芸能界はどうなっていくのか。 「もっともっときれいになっていくでしょう」 芸能界を長く見てきたものほどお笑い界の変化を強く感じているようだ。十数年前、喜劇役者・伊東四朗氏はあるインタビューで、「最近のテレビは笑わせるより、素材のおかしさで笑われる時代になった」ことを踏まえたうえで、「舞台は演じる笑いができる」と答えている。 「伊東さんは喜劇役者ですから、『人を笑わせたい』と強く思う人なんでしょうね。芸人もやはり芸で笑わせるしかない。つまり、芸に立ち戻るってことです。最近では『その言葉は使っては駄目』『その設定は駄目です』みたいなことも言われますけど、だったらそれをクリアしたうえで、純粋に面白いコントや漫才を作ればいい」 ジュニアはふと、心に強く残っているという伊東四朗氏のエピソードを話してくれた。 「Take2の東貴博さんの結婚式のスピーチでのこと。今は亡き東さんのお父さんはとても真面目な性格で時間もきっちり守る人でしたが、一度だけ遅刻したことがあったんです。それは息子さんが生まれた日だったと」 父とは昭和の喜劇王である東八郎氏のことだ。東氏はその日以来、一回も遅刻をしなかったという。伊東氏はこう続ける。「だけど、こんな大事な日にまだ来ていない。一体どこへ行ったんだ」。そして伊東氏は一人芝居に入る。 披露宴会場に目をやり「あ、八ちゃんが来た」と言うのだ。「嬉しさのあまり会場を間違えたな」と。そして「みんなで乾杯しよう」とグラスを手に乾杯。最初は笑っていた参列者が、最後は全員が号泣していたという。皆、いるはずがない東八郎氏の姿を、そこに認めていたのだろう。 「これは非常に能動的な笑いです。スピーチの途中から一人芝居に入る、そんなスピーチ、普通はできないです。これこそ笑いであり芸ですよね」