広げたい大人の笑い スタンダップコメディアン清水宏に聞く
一人だけで舞台に立って演じるスタンダップコメディというジャンルがある。落語や一人芝居などと同様、稽古段階から3密環境を避けることができるのでコロナ禍でもローリスクで活動しやすいメリットがあるという。日本スタンダップコメディ協会の設立者で会長を務めるコメディアン、清水宏に聞いた。なお同協会にはぜんじろう、ラサール石井、インコさんらが参加している。(取材はリモートで行いました)
客層さまざま ニューヨークでの出会い
清水は現在55歳。80年代の小劇場ブームの中で俳優としてスタートしたが、25歳のときアメリカでスタンダップコメディと出会ったという。 「ニューヨークでした。当時はまだ英語がわからなかったので観ているだけでしたが、声の調子もバリエーションがあり、話を作るところから演じるまで一人で全部をやるという部分でも魅力的に見えたし、客層も人種・老若男女問わずさまざまな人を相手にしている。やりたいな、と漠然と思っていたんです」 その後ピン芸人として「清水宏のオールナイトニッポン」「明石家マンション」「月曜映画天国」など幅広く活動を続け、役者としてもドラマ、舞台出演などキャリアを重ねたが40代になって転機を迎えた。 「所属していた事務所を辞めてこれからどうしようか考えたとき、20代の頃にニューヨークで出会ってやりたいなと思っていたスタンダップコメディが浮かんだんです。まずは東京にある在日外国人のコミュニティーで英語のスタンダップコメディを始めました。だんだん英語も覚えてネタを磨き、エジンバラ・フェスティバル・フリンジに参加しました」
エジンバラで体感 日本と海外の笑いの違い
同フェスはスコットランドの首都エジンバラで毎年8月に行われる芸術祭で、エジンバラ・フリンジあるいはフリンジとも呼ばれ親しまれる。アマ・プロ、有名・無名を問わず参加して公演できる。 「広く門戸が開かれている代わりに公演の宣伝も自分でするわけです。街でチラシを配ってお客さんを呼びました。公演を観たお客さんが『お前みたいなスタンダップは見たことがない』と笑って本当にほめてくれたんですね。ちょっと日本人とは笑いに対する感性や姿勢が違っていて、とにかく自分が思ったことを演者に言いにくる。日本は誰かが最初に笑わないとなかなか一人では笑い出さないことも多いですが、エジンバラではまわりが笑わなくてもおれは面白いよ、というお客さんが集まっていたのでやり甲斐がありました」 笑いに関する捉え方も日本と海外のカルチャーの違いを感じたという。 「日本は多数派の共有確認というか、少数派をあげつらって安心する笑いもまだまだ多いんです。お客さんも『あいつ俺たちと違って変だよな、おかしいよな』と笑うことで安心するところにいたい。いわば仲間はずれにならないための笑いですね。ところがエジンバラで目の当たりにしたのはマイノリティのための笑いというか、マイノリティが社会に切り込んでいく武器でもあったんです」 その後も東京で在日外国人を相手にスタンダップコメディを続けたが、やがて日本人の客に向けて日本語で公演をすることが主となり、試行錯誤の末に前述の日本スタンダップコメディ協会を設立した。これまで小堺一機、春風亭一之輔、林家彦いち、神田伯山、いとうせいこう、水道橋博士らをゲストにイベントを開催、全国ツアーなどを行いつつ海外でも英国、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、台湾、韓国、メキシコなどで現地の言葉でコメディを敢行してきた。