女性はなぜ「汚い!」の嫌悪感を男性より抱きやすいのか、進化論的な利点とは
ニホンザルなどの霊長類もメスの方がきれい好き、オスは「用心深さに欠け」ている
子どもがノミだらけの子イヌを拾ってきたり泥だらけの靴で家の中に入ってきたりしたとき、父親は特にとがめないが、母親は慌てて徹底的な除染作業を始める。ホームコメディーの定番パターンだ。この現象には、単なるステレオタイプではない科学的な根拠がある。ヒトを含むいくつかの霊長類において、女性や成体のメスは男性や成体のオスよりも不潔さに敏感であることが、研究によって示されているのだ。 ギャラリー:驚き!電子顕微鏡で見た昆虫、寄生虫 写真18点 例えば、ハイイロネズミキツネザルやニホンザルのメスは、オスに比べて汚染された食べ物を避ける傾向が強く、ニシローランドゴリラやアヌビスヒヒのメスは皮膚感染症にかかった仲間を避ける傾向がある。 彼女たちはなぜこんなに潔癖なのだろう? 科学者たちは、女性やメスが不潔さに敏感になることで、寄生虫感染症から性感染症まで、さまざまな病気にかかりにくくなるからではないかと言う。 フランス、トゥールーズ先端研究センターの認知生態学者であるセシル・サラビアン氏はさらに一歩踏み込んで、霊長類のメスが不潔なものに嫌悪感を抱き、食べ物を慎重に選び、病気に感染する機会を減らしていることが、オスよりも長生きする理由の1つになっているのではないかと考えている。 サラビアン氏は、「汚い!」という感情には身を守る力があると言う。
潔癖なメスは病気にかかりにくい
2010年代に京都大学の大学院生だったサラビアン氏は、宮崎県の幸島(こうじま)でニホンザルが餌を探す様子を観察した。 氏はすぐに、オスとメスでは、ものを食べる前の動作が大きく異なることに気づいた。メスのサルの多くは、落ち葉の中からドングリを拾ったときに、汚れを拭きとってから口に入れていた。 一方オスは「用心深さに欠け」ていて、食べ物を拾ったら、ほとんど見ずにすぐに口に入れる傾向があったという。 サラビアン氏は後に、幸島のメスのサルたちはオスに比べて食べ物にうるさいだけでなく、糞便を介してうつる腸内寄生虫への感染が少ないことを発見した。 こうした一般的な感染症がニホンザルの健康に及ぼす影響についてはまだよく解明されていないものの、寄生虫感染症の治療を受けたメスザルは体重が増え、繁殖の成功率も高いという証拠があるとサラビアン氏は言う。