手打ちパスタのコースが4,180円! 予約困難になる前に行きたい、阿佐谷のイタリアン
山形県は寒河江の2haにも及ぶ畑で、化学肥料や農薬を使わず育てているのは、園主の西尾佑貴さん。石田シェフ曰く「一度、畑まで行かせていただいたことがあるのですが、西尾さんは常に野菜と向き合い、それぞれの野菜本来のおいしさを本当に大切にしている。だから味が濃いというか、野菜一つ一つの味わいが凄くあるんです」。今回、牛肉に付け合わせているのは、ピーマンやインゲン、丸ズッキーニなどの夏野菜。いずれもグリルしただけのシンプルさだが、塩とオリーブオイルだけで充分なおいしさだ。
コースはここまで。デザートは含まれていないので、甘いもの好きなら、ここで「甘夏のセミフレッド」やイタリア伝統のメレンゲ菓子「メリンガータ」で締めるもよし。飲み足りないならグラスワインを頼み、アラカルトの中から「長野産天龍鮎のクロッカンテ」といった前菜を追加、じっくり腰を据える手もある。だが、もし、お腹にまだ余裕があるなら、ぜひ試してみたいのが「カネーデルリ」。修業先である「ダ・オルモ」でもおなじみの北イタリアの味だ。
イタリア最北部のトレンティーノ=アルト・アディジェ州は、第一次世界大戦までは、オーストリア=ハンガリー帝国の領土だった地域。それゆえ、食文化もオーストリアやドイツの影響が強く、この「カネーデルリ(クネーデル)」もその一つ。硬くなったパンに卵を加えた生地を丸めて作る、いわばパン団子だが、石田シェフはここに根セロリのピューレをプラス。両面を焼き、焦がしバターをかけただけのいかにもそっけないビジュアルながら、舌にしっとりと馴染む柔らかな食感の中、根セロリの甘みが優しく味蕾に広がる。どこかほっとするおいしさだ。
おそらくは、残って硬くなったパンの再利用から生まれたのだろう。派手ではないが、先人たちの知恵が偲ばれるこうした一品にこそ、心の琴線に触れる味わいがある。今風に言えばサステナブルということになるのだろうが、古くから続く庶民の料理には、もっと切実な、必要に迫られればこそ生まれた逞しい味わいが潜んでいる。石田シェフがこう語る。「このカネーデルリは、アルト・アディジェでは、日本でいうおにぎりみたいな存在のようです。根セロリのほかほうれん草やじゃがいもなどの野菜を入れたりと混ぜ込む具はさまざま。スープや煮込みにしたりと食べ方もいろいろなんです」とのこと。