奇観!山肌に鉄骨を組んだ工事用道路、「掘ったら崩れる」軟弱地盤に予定されたダム、3200億円かけ本日も工事中
また、豊川は、1962年に制定された水資源開発促進法に基づき、「産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保する」として1990年に「水資源開発水系」に指定された。設楽ダムはそこにも位置付けられている。 同法に基づく豊川水資源開発基本計画は5回の変更を経た。現在も、有効貯水容量9200m3 のうち、治水が21%、利水が79%と、主たる目的はあくまで利水である。しかし、その利水容量の82%が「流水の正常な機能の維持」容量だ。 「流水の正常な機能の維持」容量とは本連載第13回〈5人の命を奪ったダムの「緊急放流」、降水量に見合った運用していればこんな悲劇は…で〉触れた、現在、四国整備地方整備局が肱川に作ろうとしている山鳥坂ダムの目的として「河川環境容量」と称しているものと同じ。ダムで水を取りすぎて、魚が泳げない川にしないための用水である。 ■ 前提だった「都市人口の増加」、現実には人口減少 そもそもダムを作らなければ不要である目的が、主目的(利水)の8割を占める。「多目的ダムじゃない、無目的ダムですよ」と伊奈さんは批判する。 利水目的の残りの2割は、愛知県が確保した水道用水(600万m3 )とかんがい(700万m3 )だが、どちらも不要不急。ダム構想から社会情勢は変化し、豊川水系は水資源開発促進法で定めたような「都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域」ではなくなり、受益地の5市(豊川、豊橋、田原、蒲郡、新城)全てで人口は減少中だ。かんがい用水には具体的な受益者がおらず県が事業費を負担すると愛知県水資源課長は述べる。
■ ダムができてもできなくても「誰も責任をとらない」 これまでに見直しの機会がなかったわけではない。大村秀章愛知県知事が知事候補だった頃、「設楽ダム予定地の現場を見て欲しい」と伊奈さんが頼んだことがある。就任後に知事は設楽町を訪れたが、「国交省が知事を呼んだんだと、反対住民は会合の場に入れてもらえなかった。ところが知事が『会う』と言ったので、別室で知事と私たち反対住民が話して、賛成・反対の両者が討論する場を持とうということになった」と伊奈さんは振り返る。 「設楽ダム連続公開講座」という名でテーマごとに2012年7月から2014年3月まで10回開催された。しかし、早くも2013年12月に大村知事は「建設容認」へと態度を変えてしまった。 総事業費は当初予算2070億円が、工期延長時に3200億円に増大。県負担は1073億円に及ぶ。さらに、ダム事業による影響緩和として行われる水源地域対策事業総額1030億円の一部を県は負担する。しかし、自治体の立場で歯止めをかけるチャンスを失った。 伊奈さんは、「地質は最初から軟弱だと分かっていた。付け替え道路やトンネル工事でやっぱり地盤の悪さが露呈した。工期が伸びれば建設会社が儲かる。政治家もそれでいい。誰も責任を取らない。周辺工事がすべて完成した後で、ダムはできないといって止めるんじゃないか」と予測を立てている。 設楽ダムができれば浸水被害軽減の効果があると言われながら氾濫被害を受忍させられている豊川下流の霞堤地区住民にとっては、それは噴飯ものだ。ダム建設が続行されるにしても8年の工期延長で済むとは限らない。 いったい誰のためのダム事業なのか。この事業のなり行きを見てきた伊奈さんでなくても、「責任者は誰だ」と言いたくなるのではないだろうか。
まさの あつこ