奇観!山肌に鉄骨を組んだ工事用道路、「掘ったら崩れる」軟弱地盤に予定されたダム、3200億円かけ本日も工事中
地盤が悪すぎて、「このダムは絶対に完成できない」と地元住民に指摘されているダムが豊川上流にある。国土交通省中部地方整備局(以後、国交省)が進める設楽(したら)ダムだ。前回書いた豊川の霞堤地区から車で1時間。上流に向かうと、過疎化が進む人口約4000人の愛知県設楽町に辿り着く。 【写真】「なんですかこれは?」と思わず声が出た奇観、地山に荷重をかけない地すべり対策として作られた工事用道路 完成できない理由について「まぁ、見ればわかります」と言って現場に案内してくれたのは、ダム予定地直下に暮らす伊奈紘さん(79歳)だ。愛知県立の小学校校長を6年、中学校校長を3年務め上げた元理科教師だ。 ■ 眼前に広がる異様な光景、建設専門官も「初めて」の地すべり対策 案内された先には、鉄骨の上に作った工事用道路が、山に巻きつき、谷を渡り、ダムの天端(一番上)の高さまで続く、見たことのない風景が広がっていた。その向こうに、ダム完成後に使われる予定の付け替え道路の橋脚が聳え立ち、巨大なクレーンが首を伸ばしている。 「なんですかこれは?」と思わず声に出すと、「いや、私も聞いたんだ。どこのダムだって工事用道路が必要なら山を削って作る。なんでそうしないのかと。そしたら怖くて作れない。崩れるから」と事業者が答えたと伊奈さんは言う。
事業者である国交省河川計画課の建設専門官に聞くと、伊奈さんが聞いた通りの説明が、より詳しく返ってきた。 「地すべり対策をするにあたって、上に大きな荷重がかかって滑るといけないので、できるだけ地山に影響を与えない工法を採用した結果、鉄骨の工事用道路を整備した」というのである。 「他では見たことがありません」と促すと、「私も初めてです。全国的に見ても、ああいう形で工事用道路を整備するのは、ないことはないと思いますけど、あれだけの規模というのは珍しい」と率直だった。 ■ 最悪の地質、砂山に作られるダム 地質の悪さはコンクリートダムが設置される谷も同様に見えた。その谷の両側へと、伊奈さんに案内されるまま、踏み込んでいくと、あちこちに地すべり対策の工夫が見えた。山肌を切って作った工事用道路のひとつでは、礫を詰め込んだ蛇籠を何段にも積み上げて法面を支えていた。 そして、ダム左岸の天端(最も高いところ)が作られる高さに着くと、真正面に右岸の山が見えた。鉄骨上の作業道路の高さで山を削っている重機が米粒のように小さく見えるが、山肌は石ころ混じりの砂の山に見えた。 日曜日とあって工事も休み。右岸側へ回り込んで、至近距離で見ても、どう見ても石や岩混じりの砂山だった。