奇観!山肌に鉄骨を組んだ工事用道路、「掘ったら崩れる」軟弱地盤に予定されたダム、3200億円かけ本日も工事中
伊奈さんはその箇所は、国交省が「ゆるみ」ゾーンと資料に書いている場所だと指摘。そこで、国交省設楽ダム工事事務所の2021年5月の公表資料「設楽ダムにおける地質調査について」を見てみると、「ゆるみ」は3本もの断層で囲まれ、「弱部となる可能性がある」ため「掘削除去」すると書いてあった。 「ゆるみ」箇所は、谷の横断面図で見ると、高さ約70mと巨大。しかも、ダムの壁ができる谷の左右には破砕幅が20cm以上の断層が4本ある。これは伊奈さんの言う「滅茶苦茶に破壊された」地質の話と符合する。そのうちの1本は最大3mの破砕幅があるが、「(ダムの)堤体の安定性に問題はない」、亀裂はセメントで埋めると資料には書いてある。なるほど、こうして掘削量とコンクリートの打設量が増え、8年もの工期延長が行われるわけだ。 そう思ったら、伊奈さんは「ゆるみゾーンは左岸にもあるが、私が入って見たのは右岸のこっちだ」と、国交省の委託業務「平成20年度 設楽ダム地質総合解析業務報告書」を示してくれた。つまり、左岸と右岸の両方に掘削とコンクリート打設が必要な「ゆるみ」がある。 ■ 何のためにダム工事を進めるのか 問題は、税金と時間をかけて、そこまで大地を削り、コンクリートを注ぎ込むほどの必要性が設楽ダムにあるのか、だ。 実は、地域住民から見れば、設楽ダムの歴史は、国交省が公表資料で記録しているよりも遥かに古い。伊奈さんによれば始まりは1949年、農業用水ダムが求められたが、当時、田口鉄道という伐採木材を運ぶ鉄道の付け替え工事が必要になるとわかった。その代わりに下流に宇連ダム(現在、独立行政法人水資源機構の所管)を作って目的を達成、この話は消えた。 1962年、発電用ダムを電源開発が作ろうと地質調査をしたが立ち消えたあたりからは、国交省の公表資料に事実として簡略に示されているが、その地質が悪くて電源開発が断念した場所に、1978年から多目的ダム計画を進めてきたのが国交省だ。