なぜ村岡桃佳はコンタクト落下で「一瞬何も見えなくなる」危機を乗り越え北京パラ2つ目の金メダルを獲得できたのか?
北京冬季パラリンピックのアルペンスキー・スーパー大回転が6日、北京北部延慶の国家アルペンセンターで行われ、女子座位で村岡桃佳(25、トヨタ自動車)が1分23秒73で金メダルを獲得。前日5日の滑降に続く二冠を達成した。 2番スタートの村岡は序盤で左目のコンタクトレンズがずれ、中盤ではそれが落ちるハプニングに見舞われながら、怯まずに正確な高速ターン技術が要求される難コースを攻略。1番スタートで暫定首位に立っていたライバル、アナレナ・フォルスター(26、ドイツ)を終盤で逆転し、わずか0秒11差でフィニッシュした。 日本勢の二冠は2014年ソチ大会アルペンスキーで男子滑降、スーパー大回転座位を制した狩野亮(35、マルハン)以来。前回平昌大会の大回転も制している村岡は通算金メダル数を「3」に伸ばし、冬季パラリンピック史上で日本人選手最多に並んだ。男子座位では森井大輝(41、トヨタ自動車)が滑降に続く銅メダルを獲得した。
「ひやひやする部分もあった」
笑顔を輝かせながら応じた、二冠を達成した直後のフラッシュインタビュー。第一声を「うーん……」と切り出した村岡は、衝撃的な事実を明らかにした。 「嬉しさもありつつ、自分の滑りを振り返ったときにレース中にハプニングがあって、それがなかったらもうちょっと行けたという悔しさはあるんですけど。ただ、結果として金メダルを取ることができたので、すごくよかったと思っています」 ハプニングとは何なのか。それは標高1825m地点に設けられたスーパー大回転のスタートゲートを、2番スタートの村岡が勢いよく飛び出した直後に起こっていた。 「割と序盤でコンタクトレンズがずれて、途中で一瞬、何も見えなくなって、思っていたラインとちょっと違うところに滑っていってしまうこともあって、自分でも冷や冷やする部分もありました。こんなことは初めてで、自分でもびっくりしました」 専用のいすに装着された一本板のスキーから伝わる振動が原因だったのか。裸眼で視力0.1程度という村岡が競技をする上で絶対に欠かせないコンタクトレンズがずれた。左目だけながらハプニングではなくトラブル、あるいはアクシデントと言っていい。 当然ながら村岡の視界はぼやけ、旗門もダブって見える。実況解説を務めた元パラリンピック代表、井上真司氏が「ちょっと慎重になりすぎていますね」と序盤の滑りを評したのも無理はない。手探りで滑らざるをえない状態だったのだ。 最初のチェックポイントでは、1番スタートで暫定首位に立った世界選手権覇者のライバル、フォルスターより0秒10遅れていた。しかし、想定外のハプニングでもたらされた動揺を、いつまでも引きずっているわけにはいかない。 村岡は腹をくくり、思考回路から記憶と感覚を引っ張り出した。