なぜアルペンスキー”エース”村岡桃佳は北京パラでの日本勢第1号となる2大会連続金メダルを獲得できたのか
北京冬季パラリンピックのアルペンスキー滑降が5日、北京北部延慶の国家アルペンセンターで行われ、女子座位で村岡桃佳(25、トヨタ自動車)が1分29秒77で金メダルを獲得。今大会における日本選手団の第1号メダリストになった。 前回平昌大会で大回転の金、滑降の銀を含めた全5種目でメダルを獲得。3度目のパラリンピックとなった今大会では日本選手団の主将を務める村岡は、途中棄権する選手が相次いだ難コースを果敢に攻略。ライバルのアナレナ・フォルスター(26、ドイツ)に0秒82差をつけてフィニッシュし、4年前の自分を超えるメダルを手にした。 男子座位では村岡が“師匠”と慕う森井大輝(41、トヨタ自動車)が、2006年トリノ大会から5大会連続の表彰台となる銅メダルを獲得。4競技に29選手が参加し、平昌大会の10個を超えるメダル獲りを目指す日本選手団に最高の弾みをつけた。
前日が25歳の誕生日「自分はいける」
フィニッシュラインを通過し、チェアスキーを減速させながら、村岡はストックを握っていた左手を小さく突き上げた。最大のライバルとして意識していた、フォルスターのタイムを0秒82上回った。金メダルを確信した瞬間だった。 開会式前日の3日に誕生日を迎え、25歳で臨む最初のレースを制した村岡は「すごく嬉しいし、安心しました」と満面の笑顔を浮かべながら心境を明かした。 「4年前の初日のダウンヒル(滑降)では『メダルを取りたい』という気持ちで臨み、実際に銀メダルを取れてすごく嬉しかった。今回はどうしても金メダルを取りたかったんですけど、不安のなかで昨日の夜からレースまでの時間を過ごしていたので」 ランキング上位の選手から順にスタートするなかで、まずは1月の世界選手権(ノルウェー)で滑降を制したフォルスターが1分30秒59でフィニッシュした。 続く村岡はスタートを前にして大きく深呼吸した。緊張するタイプで、レース前は震えることが少なくない自分にスイッチを入れるための欠かせない儀式。果たして、勢いよく飛び出した村岡は、まったく異なる思いに駆られながら風を感じていた。 「スタートからは『自分はいける』と自信を持って滑り出せましたし、レースの途中でも『あっ、いい調子だな』と思いながら滑ることができていたので」 最初のチェックポイントでフォルスターを0秒80上回ったが、2番目で0秒10ながら遅れた。そして、この難関コースで最大のクライマックスへ突入する。 直角カーブから左右がすり鉢状になった区間をへて、再び直角カーブが待ち受ける。最高速度が時速100kmを超え、わずかなミスが転倒やコースアウトにつながりかねない難コースで、村岡の後に滑った5人のうち実に4人が途中棄権した。 村岡自身も3日間のトレーニングラン(公式練習)の初日に、すり鉢状の区間で転倒している。少なからず抱えた恐怖心を、入念な準備で克服した。 「すり鉢のところに関しては、コーチと一緒に2日目、3日目のトレーニングランをへて私なりのラインを見出せました。今日は滑っていてすごく気持ちがよかったです」 言葉通りに2度目の直角カーブを抜けた後の最後のチェックポイントでは、逆にフォルスターに1秒44もの大差をつけていた。この時点で勝負はついた。