ミャンマーの「クーデター」 少数民族問題と中国の一帯一路から見る
軍に依存せざる得なかったミャンマー政府
軍の問題は、少数民族問題と関連しています。ミャンマーは世界でもまれなくらい少数民族の比率が高く、全人口の3割近くを占めています。少数民族対策は国政の最重要問題の一つです。しかし、一部地域の少数民族は今でもミャンマー政府と武装闘争をしています。中でもロヒンギャ(イスラム)が居住している同国西部ラカイン州の状況は悪化しており、仏教徒の過激派とイスラムの武装勢力が衝突を繰り返しています。それを軍が統制・鎮圧する中で多数の犠牲者が出たとも伝えられています。ミャンマー政府は少数民族をめぐって軍に依存せざるを得ないのです。
かといって、ミャンマー政府は今以上に軍への依存度を高めることはできません。軍をコントロールすることはミャンマーが民主化するために避けて通れない問題です。ミャンマーの現行憲法には軍人枠があり、4分の1の議席を軍の代表に充てるよう規定されているからです。アウンサンスーチー氏とNLDは、憲法改正によってこの特殊規定を撤廃し、真の民主化に向かって進もうと努めてきましたが、今日まで実現できていません。改憲には全議員の4分の3を超える賛成が必要であるため、非常に高いハードルなのです。 そんな中、中国はミャンマーの隣国として少数民族に強い影響力を保持しています。ミャンマー政府に反抗し続けている少数民族は中国との国境付近が活動地域であり、ミャンマー軍の攻勢が強まると、中国領内へ逃げ込むなどしています。このため、アウンサンスーチー氏は中国との関係を良好に保つよう努めてきました。 欧米諸国は中国と違って、今回のクーデターを「民主化の後退」と捉え、国軍を厳しく批判して「即時に行動を撤回すべきだ」と要求し、「軍が応じなければ制裁を復活させる」ことも示唆しました。米国のバイデン大統領は1日、「民主主義や法の支配への移行プロセスに対する直接的な攻撃だ」と非難しました。さらに米政府は2日、ミャンマーで起きた事態を国軍のクーデターと正式に認定し、一部の人道支援を除いてミャンマー政府への援助を停止することを決めました。 国連安全保障理事会は4日、報道声明を発出し、アウンサンスーチー氏らの拘束を批判し、即時解放を求めるとともに、市民の意思と利益に沿う形で対話に基づいて事態を解決するよう求めました。報道声明は国連の公式文書であり、その発表には全15理事国の同意が必要です。もっと強い内容にすべきだとの意見もありましたが、中国がこの声明に賛成したことには重要な意味があります。中国も国軍に対し圧力をかけることに賛成したからです。