汚い、臭い、公共トイレを日本一美しく!トイレ清掃のプロ集団が考える“きれいの極意”とは?
清掃だけでは限界がある、きれいなトイレの維持
――OPT結成当時の奥多摩町にある観光トイレは相当ひどい状況だったということですが、そこからどうやって、今のようにきれいなトイレにしていったのですか。 大井:掃除のノウハウがあったわけではないので、独学でいろいろと研究しました。その頃、奥多摩町のトイレは東京オリンピックに向けてリフォームが始まっていたのですが、何カ所か汚れがひどい場所をとっておいて、そこを「ラボ」、いわゆる研究所にしていました。ひどい汚れに対してどの洗剤を組み合わせるときれいになるのか、実験していたんです。 山の中にあるトイレというのは、雨風といった自然の影響を直に受けるし、土の上を歩いていた人がトイレに入るわけですから、床は土で汚れるし、落ち葉も舞い込んでくる。それぞれのトイレに汚れの個性のようなものがあるので、ラボで研究しながら汚れを落としていきました。 ――トイレがきれいになることに対する、周囲の反応はいかがでしたか? 大井:まちのいろいろな方から、トイレがきれいになって、匂いもなくなって、安心して使えるようになったと言ってもらえて、さらにやる気になりました。 大井:ただ、正直、トイレはすごく汚れている状態からきれいにするよりも、きれいな状態を維持するほうが難しいんですよ。というのも、汚い状態からきれいにするのは変化が大きいですから、掃除をする側もトイレを見る人も「きれいになった」と感じやすいと思うんです。 それに対して維持をするとなると、清掃でいくらきれいにしても、その後最初に使う人が汚してしまったら、すぐに元の汚い状態に戻ってしまう。トイレ掃除を続けるうちに、利用者の方にきれいに使ってもらう働きかけが必要だと気が付きました。
――具体的にはどのような働きかけをしているのですか。 大井:はいつくばって、ごしごし磨いている姿を見てもらうことです(笑)。OPTではあまり大きな清掃機械や柄の長いモップ、ブラシは使わずに、床に膝を着けて手作業で磨いていきます。僕たちがタイル1枚、溝1本も逃さずに磨いている姿を見ると、「これは汚せない」と皆さん思うはずです。 ミント:あとはトイレを利用する方に、「いってらっしゃい」「ありがとうございました」と、あいさつをすることも心がけています。「奥多摩にきてくれてありがとう」「きれに使ってくれてありがとう」という気持ちを込めて。そうすることで、私たちの味方になってくれて、きれいに使ってくれる人も増えている気がします。 大井:奥多摩町を訪れる人のほとんどは、都内から電車で2時間ほどかけてここに来て、到着してから初めて使う施設が、僕たちが清掃する公共トイレなわけです。日常で忙しい人も多いだろうし、たまたま機嫌が悪かったっていう人もいるし、トイレに入るときにあいさつをしても、つんけんしている人も多いです。 でもそういう人たちでも、トイレを使って出てくると、「きれいだったよ」「ありがとう」と声をかけてくれます。そんなふうに、自然とコミュニケーションが生まれる場所になっていることが、純粋にうれしいですね。 ――素敵ですね。大井さんたちは、公共トイレやトイレ清掃員の悪いイメージを取り払うためにいろいろなことをされていますよね。 大井:そうですね、いろいろやってきましたね。OPTのテーマソングを作ったり、You Tubeで発信したり……。テーマソングのミュージックビデオには地域の子どもたちにも出演してもらいました。 僕の気持ちの根底には、奥多摩町の子どもたちに好かれたい気持ちと感謝を伝えたい気持ちがあるんです。僕の仕事が子どもたちからからかわれたことで、今の自分があるわけですから、子どもたちにとって、親しみやすいトイレ清掃員を目指しています。 ミント:あとはトイレ清掃員のイメージを変えるために、私たちが担当しているトイレの前には必ずリーダーのポスターが張ってあるんです。トイレの清掃員は表に出ないことがほとんどじゃないですか。でもあえて顔を見せて、この人がやっていますとアピールしています。