築64年の平屋建て団地“天空の廃墟”に申し込み殺到、その圧倒的な「魅力」団地が借りたい人が夢見ているもの
コンビニはおろか、店の一軒もない駅前から細い坂道を上ること10分。古い平屋の住宅が整然と並ぶ一画が現れる。旧横須賀市営田浦月見台住宅である。 【写真】「天空の廃墟」と呼ばれる神奈川県・横須賀の団地、月見台住宅を空中から見ると 2年前に最後の入居者が退去して以降無人だった築64年の団地で2024年夏から新たな入居者募集が始まった。ネット上ではしばしば「天空の廃墟」と称されてきたが、交通、生活の利便性という点では難もあるように思われる、現状では廃墟同様のこの団地に申し込みが殺到しているという。その理由を知ろうと現地を訪れた。
■駅からはひたすら坂道が続く 「旧横須賀市営田浦月見台住宅」(以下、月見台住宅)が整備されたのは1960(昭和35)年。最寄り駅は横須賀線田浦。駅周辺には自衛隊や港湾関連の施設が集積しており、スーパーやコンビニエンスストアといった生活利便施設はほぼない。 駅からはひたすら坂道が続く。横須賀は坂の多いまちとして知られるが、道をまっすぐに作れず、のの字になっている場所があるほどといえば、その急坂ぶりがおわかりいただけよう。駅まで7分ほどという他ルートもあるが、そこは階段もある山道という。
そんな高台にある月見台住宅には1万4000㎡弱の敷地に長屋建て、平屋の22棟、58戸が敷地内を走る3本の道に沿って整然と並ぶ。この時代に作られた他の団地同様、各棟間はゆったりと広く、周囲には緑が広がる静かな場所である。場所によっては眼下に長浦湾が望める。 【写真】ネット「天空の廃墟」と呼ばれる月見台住宅を実際訪れてみた。見晴らしもすごい(写真約20枚) 住環境としては抜群だが、住宅は荒廃が進んでいる。2020年度に市が老朽化を理由に廃止を決定し、2022年に最後の入居者が退去。その後は空き家になったままだったのだ。
だが、「広大な無人の団地が放置されているのは不安」と周囲から声が上がった。実際、窓ガラスが割られるなど看過できない事態も発生したため、市は活用を決意。2023年度に活用事業者として選定されたのが鎌倉を本拠とするまちづくり会社、エンジョイワークスである。 ■「暮らしながら働く人」を対象に考えた 用途地域は第一種低層住居専用地域。住むことが最優先される場所だが、住居だけで考えるには難しいところもあろうとエンジョイワークスが提案したのは“なりわい住宅”。住みながら家の一部を利用した小商いなどが可能な兼用住宅である。