「音楽をつくることは喜び。それは変わらない」――米津玄師が語る、AI時代の音楽との向き合い方
生成AIによる無法地帯に巻き込まれる「反対する気持ちはよくわかる」
今、強い関心を抱いているものの一つに、生成AIがある。生成AIは音楽制作の環境を劇的に変えている。ツールとしてのAIに興味があるが、新しいテクノロジーが引き起こす混乱に巻き込まれてもいる。 「決してひとごとではないと思っています。みんなそうだと思いますが、ミュージシャンもひとしお。YouTubeやTikTokを探せば、歌ったことのない自分の歌がいっぱいあって。しかも一つや二つではなく、自分でも『俺じゃん』と思うぐらい精度が高い」 「歌わせてみた動画」とか「AIカバー」と呼ばれるもので、まるで米津が歌っているように聞こえるが、本人ではない。生成AIを搭載したデジタルツールで作成されたコンテンツで、作成者はミュージシャンや声優などの音声データをAIに学習させており、その人が歌っているように聞こえる。 生成AIに著名人の声を模倣させることは、模倣された人の権利を侵害していると考えられる。ルールづくりの動きは出ているが、アメリカでも日本でも法整備が追いついていない。近い将来、法律ができて秩序が生まれるだろうが、今この瞬間はカオスだ。
「生成すると結構なクオリティーのものがつくれてしまうのは、人によっては食い扶持を失うというか、生きるか死ぬかの問題になってしまう部分があって。それに対してどう向き合うべきかは、やっぱり考えます。自分も当事者の一人だから、AI技術に反対する人たちの気持ちはよく分かる。同時に、もうどうしようもないじゃないかとも思うんですよね。法律が整備されたら別ですけど、道徳的、倫理的によくないよと言ったところで、使う人は使う。いかに差別化するかを考えないといけないんじゃないかと個人的には思います。そう思う一方で、これは自分がまだ余裕のある立場だから言えることだとも思うし、結論は出ていませんが、少なくとも権利周りの問題は早急に妥当な回答を見つけるべきだと思います」 プロンプト(命令文)を入力するだけで誰でも曲がつくれる時代が来たとして、「音楽をつくること」の意味は変わるのか。 「根源的な部分は変わることはないと思います。自分にとって、音楽をつくることはまず喜びなので。つくることそのものが目的の一つなので、そこは変わりはしないけれども、人間のつくる音楽が(聴く人に)どのように受け止められるかは、容易に変わり得ると思う。それはそのときだな、とは思いますね」