「病気を公開しながら、音楽を作っていく」――サカナクション・山口一郎、うつ病との闘い #病とともに
今年1月、サカナクションのボーカル・山口一郎は、千秋楽を迎えたソロライブツアーのステージ上で自身がうつ病だと公表した。不調に気付いたのは2年ほど前。朝から晩までベッドから出られず、ライブも中止し、不安と焦りでいっぱいになった。以来、一進一退を繰り返す体調と向き合う日々を過ごし、「ようやくここまで回復した」と取材に応えた。闘病の経過、周囲の支え、病と生きる現在を語る。(取材・文:内田正樹/撮影:後藤武浩/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
診断を受けてから約2年、“揺り戻し”に苦しんだ
「最初は3カ月ぐらいですぐによくなると勝手に考えていた。でも3カ月が6カ月と延びて、1年を過ぎたあたりで、『これは一生付き合っていくのかもしれない』と思いました」 山口一郎(43)が自身の不調に気付いたのは2022年5月。サカナクション15周年の配信ライブを終えた頃だった。 「コロナ禍以降もアクセル全開でがんばっていて、その頃の僕はラジオのレギュラーを3本、テレビのレギュラーを2本持って、レコーディングもライブもやっていたんですが、15周年のライブが終わった後、どっと疲れてしまった。すごく体がだるかったけれど、その時はまだ『更年期障害かな?』という程度にしか思っていなかった」 「僕の所属事務所にはカウンセラーの方がいたので話してみたら『ちゃんと診察を受けたほうがいい』と言われ、メンタルクリニックに行きました」 当初、メンタルクリニックへの通院にはためらいがあったという。 「抵抗感がありましたが、いざ行ってみると『普通の病院のように、身体的な症状を説明してほしい』と。それでバーッと話したら、『それ、しっかりとしたうつ病ですよ』と言われて『え、僕が!?』と驚いてしまって」
山口は以前から数々の身体的不調に悩まされてきた。 「突発性難聴、群発性頭痛、頸椎ヘルニア、帯状疱疹……内科も整形外科もペインクリニックも行って、痔で肛門科も通って。そこにうつ病でしょ? 我ながらミュージシャンっぽいなあって」 通院を始めたものの、当初は処方された薬を服用していなかったという。なぜか? 「本当に僕の知識が浅かったんだけど、薬の働きのせいで無自覚なまま変なものを作っちゃうんじゃないか、とか、何も作れなくなったらどうしようと想像したら怖くなってしまって、内緒で飲まずにいた。そうしたら一気に体調が悪くなっちゃって。食欲もなく、朝から晩までベッドから出られない。這い上がっても、30秒ぐらいでまたベッドに倒れ込んでしまう。でも何か食べなきゃ死んじゃうし、僕は独身で一人暮らしなので、必死にスマホを持ってUber Eatsを頼んでみる。だけど玄関先まで取りにいくことすらままならなくて、出前がどんどん玄関に溜まってしまった」 「これはもう本当に死んじゃうんじゃないかとか、元に戻れなかったらどうしようと考えてしまい、精神的に追い込まれた。いよいよまずいと感じて、処方された薬を飲み始めたんです。すると朝は動けないものの、昼や夕方は動けるようになった。ちょっとずつ活力が出て、前向きになっていきました。そうして1年が過ぎた頃、出版した書籍のサイン会とクラブイベントをやってみたんです」