高2の息子はいじめで命を絶った…「もう犠牲者を出したくない」と願った両親が直面した"私立という壁"
■遺族が身を挺して事実と向き合った理由 ――尋常ではいられない精神状態の中で、遺族が行政に対して複数回の情報公開請求をしたり、学校や行政との話し合いを記録するなどして、事実を少しずつ積み上げていく過程も記録されました。 【石川】ご両親が耐えた精神的な苦痛は想像を超えるものだと思います。では、なぜそこまでしてご両親が事実を明らかにする作業に挑んだかといえば、それは息子さんへの愛だと思います。彼の生きた証しを残したい、それは何かということをご両親はものすごく考えたんでしょう。 ご両親にも、息子さんの悩みに気づかなかったことへの自責があります。自分たちに非がないとは思っていない、だから、いじめたとされる生徒たちや学校側の対応について、複雑な感情があると思いますが、僕らの前では彼らを批判する言葉は一切出てきません。 ご両親は、同じようなことを繰り返してほしくないという一心で、せめて彼の死を無駄にせず、ほかの子どもたちが自死に追い込まれないようにするにはどうしたらいいかを考えました。そして、祈るような気持ちで事実を明らかにしようとしてこられたと思います。 ■いじめは決して「ひとごと」ではない ――遺族は学校の不誠実な対応について民事裁判を起こし、現在も係争中です。一方で、私学法やいじめ防止対策推進法といった制度の欠陥が早々に変わることは難しいのではないかと、暗澹とした気持ちにもなりました。私たちにできることがあるのでしょうか。 【石川】いじめは私たちのすぐ隣にある問題です。私学に通うわが子がいじめの対象になったり、集団でいじめる側に巻き込まれる可能性は誰にでもあることです。 学校、行政、報道、そして生活者としての僕らが、それぞれの立場で当事者として関わることが大事だと思います。ひとごとではなく、自分たちの問題として捉えることで違って見えてくるものがあるし、そういうことの積み重ねからしか自分たちの社会をよくしていくことはできないと僕は思います。 それと、記録を残すべきだと思います。自殺した子どもたちが無駄死ににならないようにしなくてはいけません。せめて、自殺で亡くなったケースについて一つひとつを記録し、データとして集積する。そして、今後の子どもたちが自殺しないで済むようにするにはどうしたらいいか、考える材料に生かしていくべきです。 ――遺族が署名活動を始めました。 ご両親はいじめ防止対策推進法の改正を求めるオンライン署名活動に取り組みました。この法律に罰則規定を設けることを要望するものです。約3万筆が集まったそうです。 子どもを中心に考えたときに、子どもをどう守ることができるかは、学校や行政はもちろん、僕たちが当事者としてどのような行動をとっていくかにかかっていると強く思います。 ---------- 三宅 玲子(みやけ・れいこ) ノンフィクションライター 熊本県生まれ。「ひとと世の中」をテーマに取材。2024年3月、北海道から九州まで11の独立書店の物語『本屋のない人生なんて』(光文社)を出版。他に『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』(文芸春秋)。 ----------
ノンフィクションライター 三宅 玲子