奄美大島のマングース根絶、多難な道のりと外来生物のこれから
2つの評価手法を「ゼロ」の根拠に(深澤圭太さん・国立環境研究所)
―深澤さんはマングース防除事業への関わりが長いと伺いました。
環境省からの受託事業者としてマングースバスターズの雇用やデータ整理を担っていた自然環境研究センター(自然研)に所属していた2011年から、事業に関わってきました。最初の仕事は「意思決定にデータを使いたいが手法がない」といった課題への対応です。 事業の構想には衝撃を受けましたね。あまりにも大きく、山深い奄美大島で本当にできるのかと。さらには、身体が小さく、なわばりを持たないマングースは、行動の予測や捕獲が非常に難しい。でも、現地の人々はできると信じていて、私もプロジェクトに関わるうちに、だんだんと確信を得られるようになっていきました。
―確信を得るに至ったエピソードがあれば教えてください。
事業を進める中で、困難に直面することも多々ありました。かかりにくい個体がいたり、いないと思った場所にいたり。それに対して、現地の方がいつも知恵を絞ってくれたんです。探索犬の導入も、わなで獲りにくい個体がいずれ残ることを見越していた現場の方々がボトムアップで提案してくれたものでした。途方もない大きな目標を描きつつも、綿密に戦略を立て、データを見ながら軌道修正を図る皆さんの姿勢が確信につながりましたね。
加えて「マングースの個体数を知りたい」「在来種の回復効果を知りたい」といった現場のニーズと、それに応えられるだけの十分なデータ蓄積があったことも大きかったです。そういった意味では、私はマングース防除事業に育てられたと言えるかもしれません。生物多様性にどんなニーズがあるのか、現場での活動を通じて理解できましたし、今回の根絶宣言につながる研究のタネができました。
―根絶宣言の背景にある、根絶確率はどのように導き出したものなのでしょう。
今回は「ベイズの定理に基づく根絶確率評価」という手法を用いました。これは、6回振れば1回は1が出るというサイコロのような確率論ではなく、天気予報のように「パーセンテージが高いから雨が降るだろう」といった具合に、確率を信念の度合いとして用いるものです。 この手法では、最後の検出(生存確認)以降、どれだけゼロを積み上げられるかが問われます。事業で得られた捕獲状況の実データなどを解析していることが大きな特徴で、シミュレーション結果はマングースバスターズなど現場の方々の肌感覚とも一致していました。