花開くか「行政DX」? デジタル庁発足に期待と不安
何が良くなるの?
「デジタル化構想」と言っても国民には分かりにくい。菅首相自身の説明もパッとしない。行政のデジタル化により何が変わるのだろうか。 構想では、(1)国と地方自治体など行政機関を同一のデジタルネットワーク構造に組み込み、自治体の業務システムを標準化・共通化(2)ガバメントクラウド(政府クラウド)の構築(3)マイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載(4)全ての政府情報システムを予算の要求段階から執行まで一元管理する――などを目指すという。 具体的にはどういうことか。生活者目線からすると、これまで自治体、警察、年金機構などに対し個別に行う必要があった手続きが、情報の共有が進むことによって効率化されることなどが利点だ。 例えば、子どもの一時保育を利用する際、これまで各自治体は施設ごとに空き状況の確認や問い合わせに手間取っていたが、デジタル化が進むことによってスマートフォンで空き状況を瞬時に把握し、希望する施設にすぐ予約することができるようになったり、これまでカレンダーで確認していたゴミ収集日についても利用者に事前に知らせてくれるようになったりと、利便性の向上が期待できる、としている。 既に(1)デジタル社会へのインフラ整備(2)司令塔となるデジタル庁設置(3)マイナンバー活用など自治体情報システムの標準化(4)オンラインでの公金受取、預貯金管理――などを定めた法律は公布されており、あとは施行するだけだ。
「DXで全て解決」ではない3つの理由
筆者はデジタル化の推進に賛成だ。ただし、十分な吟味と多方面への目配りが前提となる。理由を3つほど挙げる。 【1】官僚制との兼ね合い 行政機関は国地方ともピラミッド型の官僚制だが、その官僚制には、「規則による活動」「明確な権限で活動」「組織の指揮命令一元化」という原則と並んで、「文書主義」という原則がある。意思決定、あらゆる種類の処分、指令、報告は全て文書という形で記録・保存し、後に検証可能とするべきというのが「文書主義の原則」。例えばこの文書主義の原則と行政システムのデジタル化はどう関わるのか。この原則は消えるのか、逆に消えてよいのか。 その詰めが行われないまま進めると、公文書やデジタル情報の扱いについて、組織内の各部署に大きな混乱が生じてくるのではないか。国の各省と都道府県、市区町村では文書規定そのものが違う。どのようにルール化するのか。 この1年余、コロナ禍で在宅勤務、オンラインでの仕事スタイルが普及しても押印などの必要から出勤せざるを得なかった人々がいた。それを見て、急に「捺印不要」、「ハンコゼロ」の動きになっているが、あえて問う。ハンコゼロで何が解決するのか。不正はないのか、偽文書が出回らないか。サイン文化が日常化していない日本では認印がサインの代わりだったはず。 それを廃止すれば何が解決するか。単なる省力化という話なら改革としては浅すぎる。慣例、慣習に拘る必要はないが、長く続けてきたことには意味がある。その掘り下げを十分行うことなく、改革のシンボルにしようとするなら間違う。 デジタル化と文書主義の原則をどう整理するか、この種の議論はもっと丁寧に幅広く行うべきだ。 【2】地方自治体の人材不足 現状、国・地方ともデジタル分野に通じる人材は不足している。全国1718市町村のうち、人口5万人未満の市町村は1198、約70%を占める。うち小規模町村と言われる人口1万人未満の自治体は512もある(平成31年1月時点)。10万都市で市役所の職員は約1000人が平均とされるが、それ以下のところは仕事数に対し職員数が限られるので職員1人当りの兼務が多くなる。 平成の大合併前、地方の人口8000人規模の町役場に勤務していた知人は、今回のデジタル化について以下の点を懸念する。 ▼デジタル化でコスト削減につながるように言われるが、導入にお金がかかる ▼国の職員が全て行うわけではなく、地方に任せると言っても市町村の現場ではシステム構築や運営管理等はほとんど民間委託に ▼これまで数百億円をかけて構築したシステムも発注者(行政)側がシステムの欠陥、用途に合わない無駄な機能に気付けなかった 【3】個人情報の管理 システムの構築・運用を民間に委託することにより、個人情報など機密性の高い情報の管理面でも課題がある。 町役場に勤務していた知人は外部委託し、機密保持が本当に図れるのか、懐疑的だ。彼は役場の総務課長時代を振り返り、こう語った。 「住民台帳などのデジタル化が進められ、自前でできないので民間委託でシステム導入した。情報管理の責任は全て業者が負うという契約だが、こちらにはその検証方法はなく、ただ契約書だけが頼りだった。他のほとんどの自治体も同様で、『みんなで渡れば恐くない』と納得した気分でいたが、本当に不安だった」 住民目線から今回のデジタル化においても「取り扱う情報の内容範囲、利用方法、管理方法、管理責任の所在、第三者的な権限を持つ監査機関を設置して常時の監視体制を敷き、国民に丁寧に説明して進めるべき」と訴えている。