総裁選からトーンダウンした? 岸田首相の公約 坂東太郎のよく分かる時事用語
●金融所得課税見直し
総裁選公約の「金融課税所得の見直し」も、かなり驚かれた訴えでした。金融所得課税とは、株など有価証券の配当や売却益などに課される税で、現在の税率は20%(所得税15%、住民税5%)。税率が累進的ではなく一律20%であるため、“金持ち”になるほど給与より金融所得の割合が多くなりがちで、相対的に税負担率が少なくなることを是正して分配に充てるといった主張でした。 当然、市場にとっては悪材料で、岸田総裁誕生から所信表明演説までの約1週間で日経平均株価は2000円近く下落。所信表明にも党公約にも盛り込まれず、首相も検討を先送りせざるを得なくなったようです。
●予約不要の無料PCR検査所の拡大
総裁選公約で、新型コロナウイルス対策として触れられていた「予約不要の無料PCR検査所の拡大」についても、所信表明演説で「PCR」の文言が消え、その後の代表質問では「PCR含め」と揺れ動きました。昨年来の新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)にあたり、国は当初、クラスターつぶしを主にした対策を中心とし、WHO(世界保健機構)が「Test, test, test(検査、検査、検査)」と検査徹底を求めた方針とは異なる対応でした。PCR検査が増えない理由について、安倍元首相は昨年4月に「目詰まり」があると説明しましたが、当時は保健所を介する仕組みや面倒な手続きなどが邪魔して、PCR検査は十分に拡大しませんでした。 岸田首相も「PCR検査」だけの「拡大」をことさらにフォーカスすると、前政権までの方針が誤っていたというメッセージになりかねないと危惧したのか、表現を弱めたようです。
●自民党役員の任期制限
岸田氏が8月末に総裁選への出馬表明をするにあたって掲げたのが、この「党役員の任期制限(1期1年・連続3期まで)」でした。これが国会の所信表明演説で触れられなかったのは「党内の話だから」で済むでしょうが、党公約にすらないのは不思議。何しろこの一言が「総裁候補に岸田あり」を強く印象づけたのですから。任期制限は事実上、当時の二階俊博幹事長に“降板宣告”したような威力を発揮しました。幹事長が甘利明氏に交代した今、なお一般論として「1期1年・連続3期まで」が原則と明示されるのを多くの議員が嫌がったのだと思われます。