総裁選からトーンダウンした? 岸田首相の公約 坂東太郎のよく分かる時事用語
●岸田氏の公約はブレたのか?
岸田氏の訴える政策が一貫していないという点のみを突けば、ブレたと非難されても仕方ありません。ただ総裁選、所信表明演説、衆院選挙の党公約はそれぞれに異なる意味があることを考慮すると、ある程度は仕方がないとも言えましょう。 総裁選で支持を訴える対象は、党所属国会議員と党員・党友約110万人。そこでの公約は99%の国民にとって関係ないとも言えます。しかも、ここで選ばれるのはあくまで自民党のトップであって、総理大臣ではありません。総理大臣は政府のトップです。 日本は議院内閣制ですから、最大与党のトップと総理大臣が同一人物になるのは当然ですが、役割は相当異なります。総理は国民主権の下で行政府を担う公職で、内閣は権限の行使について国会に対し連帯して責任を負うのです。国会には野党の議員も多数属していて、そこへの説明責任を果たすこと、ひいては主権者の納得も得るよう努力しなければなりません。 自民党の公約は、政務調査会で取りまとめ、総裁の了承を得る形で決定します。党の公約にないという理由で内閣が縛られるわけでもありません。 むろん「そんなのは詭弁だ」とする考えもありましょう。岸田氏のリーダーシップがあれば、総裁選の公約通りに実行して一貫するはずだと。党公約だけではなく、さまざまな背景も含めて衆院選の1票が投じられるのです。つまりブレたのだとしても、それを妥当とするか否かは有権者が判断することとなりましょう。
----------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など